政府の観光戦略実行推進会議、コロナ克服へ宿泊施設が提言


9月29日に開かれた観光戦略実行推進会議(画像:首相官邸ホームページから)

 政府の観光戦略実行推進会議の第39回会合が9月29日に開かれた。新型コロナウイルスによる観光需要への影響を踏まえ、「わが国の観光の現状と回復に向けた取り組み」がテーマ。ヒアリングで招かれた旅館・ホテル経営者の3人が、コロナ前後の経営戦略、Go Toトラベル開始後の集客状況などについて説明したほか、今後の観光施策について、長期滞在型観光を促す環境整備、宿泊施設の所有と運営の分離による高付加価値化や事業承継の促進、Go Toトラベル事業終了後の継続的な支援などを提言した。

長期滞在増加へ施策必用 池の平ホテル&リゾーツ

 ■池の平ホテル&リゾーツ(長野県立科町)代表取締役社長 矢島義拡氏

 遊園地やスキー場を併設したファミリーホテルとして成長してきたが、国内市場が縮小し、季節や曜日における繁閑の差がもたらす低い生産性が課題に。対策として、泊食分離のキッチン付きコンドミニアムの開設、健康増進プログラムの造成、コロナに先駆けたワーケーションの環境整備などで、インバウンド個人客、国内シニア層、企業の長期滞在を増加させた。

 新たな商品造成で需要を開拓し、長期滞在が増えたことで、宿泊者数の繁閑差はこの10年間で、繁忙月と閑散月の差が3倍から1.3倍に、平日と土曜日の差は3.5倍から1.6倍にまで縮小した。年間宿泊者数、宿泊単価もアップし、経営は徐々に安定した。

 コロナ禍では4~6月の稼働率が低迷したが、Go Toトラベル事業の活用などで7~9月は回復傾向。付加価値の高い商品を販売する契機にもなり、ガイド付き登山や湖上アクティビティ付きのプランが好調。9月の平均単価は前年同月に比べて3割増だった。

 今後注力する展開は、全国の湖畔事業者と湖の価値観をリブランドする「レイクリゾートプロジェクト」の推進▽湖畔エリアにオープンした「LAKESIDE FIREBASE」でのテントサウナや焚(た)き火の提供▽専門性、生産性の高い地域内の個人事業主を巻き込んだ商品造成や提携の強化―など。

 政府への提言では、「地域資本が核となる持続可能な観光地域づくりのために」として、(1)長期滞在型観光を増やすための地域全体でのコンテンツの充実や宿泊施設の改修への支援(2)国立・国定公園の自然資産を生かす規制緩和や未来型の自然公園法への再整備(3)休日の地域分散(学校の長期休暇分散、有給休暇取得促進での市場拡大など)。

事業承継に運営委託活用 温故知新

 ■温故知新(東京都新宿区)代表取締役 松山知樹氏

 旅館・ホテルの運営受託、プロデュースなどを手掛け、建築家・安藤忠雄氏が設計した美術館をリノベーションした7室のスモールラグジュアリーホテル「瀬戸内リトリート青凪」(松山市)などを運営する。土地、建物を所有せずに運営に特化するなど、運営のプロ集団として、リノベーション、リブランディングを通じた施設運営で成果を上げている。

 瀬戸内リトリート青凪は、2015年11月の開業以降、40カ月連続で前年超えの売り上げを記録した。インバウンド比率はコロナ前で15%前後。コロナの感染拡大に伴う自粛解除後はV字回復し、8月には過去最高の売り上げとなった。

 18年8月に運営を開始した「壱岐リトリート海里村上」(長崎県壱岐市)は、後継者が不在だった高級旅館を事業承継。地元スタッフの雇用を継続し、地域と連携してアクティビティツアーを提供する。「箱根リトリートfore&villa1/f」(神奈川県箱根町)では、赤字運営だった施設を引き継いだが、改装などは実施せずにリブランディングなどの効果で運営開始直後から黒字に転換させた。

 国の観光施策に関しては、価値を生かしきれていない宿、後継者不在で事業承継が必要な宿が多いが、プロのオペレーター集団への運営委託を促進する仕組みがないと指摘。運営委託や投融資が進むような政府による「オペレーターのお墨付き制度」の創設を提言した。また、国内施設に対する「ルレ・エ・シャトー」など国際的な高品質ホテルグループへの加盟費助成なども要望した。

GoTo参加後も継続支援を 宝川温泉 汪泉閣

 ■宝川温泉汪泉閣(群馬県みなかみ町)代表取締役 小野与志雄氏

 1985年ごろの温泉ブームが下火になると、宿泊客が減少したが、2000年ごろからインバウンドに取り組み、成果を上げた。渓流沿いに広がる露天風呂が外国語ガイドブックやSNSなどで話題を呼び、外国人宿泊客が大幅に増加した。

 19年の宿泊客約2万9千人のうち、訪日外国人は個人客を中心に約44%を占めた。夏が欧米からの宿泊客でにぎわう一方、冬は豪雪と温泉を求めてタイなどからの宿泊客が増えた。閑散期だった冬が「稼ぎ時」に変わった。

 コロナ禍では4月5日~6月12日の約2カ月間にわたって休業を強いられ、雇用調整助成金などで苦境をしのいだ。7月には、Go Toトラベル事業、群馬県のキャンペーンなどで持ち直し、前年並みの売り上げを回復した。旬の地元食材を使った宿泊プランの販売で単価が上昇し、Go Toトラベル事業への東京追加の発表を受けて10、11月の週末の予約は「満室」となった。

 政府への提言としては、(1)インバウンド需要が当分見込めず、中小の観光事業者が生き延びられない=Go Toトラベルキャンペーン後の継続的な支援(2)旅館をはじめ地方のインバウンド対応は不十分=英語対応が可能なスタッフの採用やスキルアップへの支援(3)地域住民、日本人観光客が今後、外国人を心理的に受け入れられるか懸念される=インバウンド再開を見据えた不安の解消―を要望した。

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 観光庁は、ウィズコロナ・ポストコロナ時代の観光施策の方向性について、地域経済を支える観光の再生と新たな展開のため、(1)観光産業の収益力向上(宿泊施設の高付加価値化や新たなビジネス展開、事業再生の支援など)(2)デジタルトランスフォーメーションの推進による観光サービスの変革(3)「新たな旅のスタイル」の普及(ワーケーションの促進、旅行需要の平準化など)―を挙げる。インバウンドに関しては回復までの期間を活用し、魅力的なコンテンツの造成、受け入れ環境整備、バリアフリー化を進める方針。

 会合に出席した菅義偉首相は、ヒアリングや意見交換を踏まえて、「ホテル・旅館の現場で施設のリノベーションなどに取り組み、Go Toキャンペーンも活用することで、国内観光客を取り戻しつつある経営者の皆さんから貴重なお話をうかがった。今後さらなる回復に向けて、個人旅行やインバウンド向きの施設への改修、事業承継の支援、外国語の看板や案内、ワーケーションをはじめとした旅行市場の拡大などを含めた幅広い対策が必要と考えている」と述べた。


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