激減した修学旅行を呼び戻そうと長崎県が体験型教育プログラムに力を注いでいる。つくりものでない「本物の体験」が、長崎県の教育旅行の新しい柱に育ちつつある。県は、平和教育のスローガンだけに依存しない修学旅行の受け入れ態勢整備に本腰を入れて取り組んでいる。
被爆体験のある長崎は広島とならぶ平和教育のメッカ。1990年には小中高生合わせて年間95万人の修学旅行生が長崎県内に宿泊した。それが06年は39万人。16年間で59%減少した。少子化で全国の小中高生数はこの間2037万人から1428万人に減っているが、減少幅は30%だ。
一方、やはり平和教育が売り物の沖縄を訪れた小中高の修学旅行生は、90年に7.1万人だったが、06年は43.6万人になった。同じ16年間でこちらは6倍に増えた。
危機感を持った長崎県が着目したのが体験型の教育旅行だ。02年1月に同県松浦市に設立された「NPO法人体験観光ネットワーク松浦党」が推進する農林漁業体験プログラムの開発を支援。現在では90種類の体験プログラムと漁村・農村民泊の受け入れ民家約500戸が整った。
02年に170人だった松浦市内の修学旅行宿泊者数は、03年484人、04年4199人、05年4798人、06年7563人と急伸。同ネットワークの取り組みは、農林水産省と都市農山漁村交流活性化機構が主催する「オーライ!ニッポン大賞」で06年度の内閣総理大臣賞を受賞した。
ただ、修旅生の71%は長崎市内に宿泊していることから、同市内での体験プログラムの充実が重要になってくる。
長崎県が3分の2、長崎市が3分の1を負担して建設、05年に開館した長崎歴史文化博物館。07年は6万人の修旅生が訪れた。長崎原爆資料館とともに教育旅行の定番スポットの地位を固めつつある。オランダとの交流の歴史の紹介や、踏み絵などキリシタン関連資料、陶磁器・べっ甲など伝統工芸品の展示等をしている。館内に復元した長崎奉行所も人気だ。
体験型プログラムも重視。長崎銀細工、長崎刺繍、長崎やけんステンドグラスなどの伝統工芸体験工房を館内に設けた。
長崎市には珍しい産業遺産もある。01年に閉山した日本最後の炭坑の島「池島」だ。ここは炭坑の入坑体験ができる日本で唯一の場所。炭坑の島というと同じ長崎市の端島(通称、軍艦島)が有名だが、こちらに上陸することはできない。池島には現在も約400人が居住しており、小中学生も20人いる。
池島では実際の炭坑にトロッコで入坑して中を見学することができる。さらに炭坑マンの社宅跡や港の石炭積み出し場など島内の炭坑遺跡群をバスで見てまわる。
坑内見学は03年に開始。これまでに32団体、2千人が体験した。そのうち修旅の受入実績は累計28校。中でも千葉県立幕張総合高校は03年から毎年訪れているという。
炭坑の管理会社、三井松島リソーシスの松浦雄二部長代理によると、生徒たちの反応は「斜坑のトロッコはディズニーランドのアトラクションより迫力がある」「日本の近代化の歴史がよく分かった」など上々のようだ。
地場の本物の価値が修旅を呼びはじめた。
日本で唯一の炭坑体験ができる池島