旅館経営者の声「課題は足元の資金繰り」
新型コロナウイルスによる旅行の自粛が広がり、全国の旅館・ホテルが危機的状況を迎えている。政府が10日、中小企業への金融支援を盛り込んだ新型コロナ緊急対策の第2弾を打ち出したが、自らの経営を維持するための自助努力も一層求められる。今、旅館・ホテル経営者は何をすべきか。
全国の旅館経営者に経営の現状や、今行っている対策を改めて聞いた。
近畿地方の旅館経営者は、「5月のゴールデンウイークには『何とかなっている』という想定の元、館内の整備や修理、清掃等、考えられる準備を次々と進めている」と話す。
ただ「3月の修学旅行は100%キャンセル、または時期変更され、一般客も連日のキャンセル。収入の見通しが立たない」と悲痛な声を上げる。「3月、4月を売り上げなしと考えて、カバーに走り回っている」。
九州地方の旅館経営者は「日増しに環境が悪化している。過去最悪だと思った熊本地震のときよりも悪い状況」。
同館ではもともとキャンセルが続出していたところ、政府が2月26日に行った大規模イベントの自粛要請、翌27日の小中高校の休校要請でキャンセルがさらに増加。政府は9日から感染症の拡大防止へ中国、韓国からの入国制限強化に踏み切ったが、「2月中旬以降、中国、韓国からの訪日客は既に散見するぐらいの少なさで、今回の措置で改めて悪影響があったとは思わない」。
中国、韓国からの入国制限強化については「コロナまん延前にこの判断をすべきであり、現時点での判断は遅すぎる。経済停滞を引き起こしかねない」(中国四国地方の旅館経営者)、「もっと早めに対応すべきだった。日本も入国禁止対象地域になりかねない」(中部地方の旅館経営者)と手厳しい。
近畿地方の旅館経営者は「インバウンドは現状、仕方ないかもしれないが、一番こたえるのは日本人の移動自粛。3月は昨年の半分に満たず、4月は3割ぐらいまで落ち込むのではないか。弊社は比較的体力がある方だが、それでも夏ごろには借り入れを起こさなければならないかもしれない」と厳しい見通しを示す。
「短期的にはとにかく倒産回避が必要。まずはこの危機を乗り越えることだ」と近畿地方の経営者。ただ、「特別融資がいわれているが、結局借金なので、この場は乗り越えても1、2年後にバタバタつぶれるのではないか」と業界の今後を危惧する。
「東日本大震災以上のインパクト」とは中部地方の旅館経営者。同館は2~4月の客数が前年同期の50%を割る状況という。
「現時点での緊急の課題は足元の資金繰り。ただ、同業者から、金融機関との折衝がうまくいっていないとの悩みを日々耳にする。同業だけでなく、かなりの経営破綻案件が増えると考える」。
九州地方の旅館経営者は「バランスが大事だと痛感している。インバウンドに関しては外的要因によるリスクが大きいと分かっていても、世の中の流れで『インバウンド祭り』になっていたような気がする。日本のお客さまを大事にしてきた宿の中では、厳しい中でも最低限の稼働を保っているところもあるようだ」。
九州の経営者は最後にこう話す。「経営者として、下を見てマイナス思考にならず、スタッフに弱みを見せず、できるだけプラス思考でいきたい」。