スマホで完結「スマートイン」 地域の活性化に役立つホテルに
――21年はどんな年だったか。コロナ禍への対応、東京五輪対応などについて伺いたい。
新型コロナウイルスによって未曽有の危機を経験した。20年2月以降、インバウンド客を含め個人客が瞬間蒸発し、法人・MICE需要にも大きな影響が出た。その中で当社ではお客さま、従業員の安全を守る感染症対策をいち早く実施し、ホテルの安全性を広く発信してきた。
東京五輪も1年延期、無観客での開催により当初描いていた姿とは大きく異なったが、東京五輪組織委員会と連携し万全の安全対策を講じ、関係者の受け入れを行った。この運営を通じて得た知見を今後のホテル運営で生かしていきたい。
――20年のGo Toトラベルキャンペーンでは、10月に東京除外が解除されたが、インパクトはどうだったか。
20年の10、11月はリゾートエリアを中心に一時的に持ち直したが、年末のGo Toトラベルの全国一斉停止で元に戻ってしまった。21年10月の緊急事態宣言の全面解除後の方が、先々の予約が動いている。Go To再開の時期はまだ決まっていないわけだが、人々の旅行に行きたいという気持ちが爆発しているように感じる。
――インバウンド客の蒸発で、国内需要獲得へと全面的にシフトされた。
コロナ禍において、地域の持つ魅力を再度見直し「近場旅」として提案してきた。これは従業員にとっても、地元の名所、旧跡、グルメを学び、地域の魅力を再発見するよい機会となった。お客さまにご案内できる自ホテル近隣の観光情報・知識が増えた。
――コロナ禍中に従業員対策で苦心されたことは。
20年の4月には5ホテルを除きすべてのホテルが休業し、従業員に不安が広がった。そこで動画メッセージなどでグループビジョンを発信し、当社グループが目指す未来像と共に乗り越えていくことを従業員に伝えてきた。
また、従業員のマルチタスク化も進めた。他部門の仕事を覚えてもらい、従業員自身の将来の糧となるようにした。マルチタスク化では、同ホテル内の別部門を経験してもらうだけでなく、自社のゴルフ場、スキー場の他、西武鉄道など西武グループ内での人事交流も進めた。次のステップに向けた良い人材育成ができたと捉えている。
――海外での事業展開について伺いたい。
海外ホテル事業については、コロナ禍前からの方針を変えず、引き続き強化していく。グローバルラグジュアリーブランドの第1号店「ザ・プリンス アカトキ ロンドン」を19年9月に開業した。18世紀後半の建物を改築したジョージアン様式、全82室のホテルだ。「The Prince Akatoki」ブランドは、世界中のラグジュアリー層をターゲットに、和のデザインや日本らしいおもてなしなど、日本の文化的要素を取り入れたラグジュアリーなサービスを提供することを目指している。現在、タイ・バンコクなどでも開業に向けて準備中。今後は世界の主要各都市への出店も視野に入れている。運営はMC(マネジメント・コントラクト)方式を中心に展開していく。
――海外事業拡大に向けての人材育成は。
現地採用も行うが、総合職従業員の海外留学・研修や海外オフィス勤務などで幹部候補生を育てている。プリンスホテルは、現在海外8都市にセールス&マーケティングオフィスを持っている。ニューヨーク、ロサンゼルス、ロンドン、シドニー、シンガポール、台北、上海、バンコクだ。プリンスホテルの海外オフィスでは西武鉄道従業員の海外研修の受け入れなども行っている。
――外資系ブランドとの提携についてどう考えているか。
提携も必要だ。マリオット・インターナショナルと提携し、「ザ・プリンス さくらタワー東京」と「ザ・プリンス 京都宝ヶ池」が「オートグラフコレクション」に、「ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町」が「ラグジュアリーコレクション」に加盟している。提携することでオペレーションやマーケティングのノウハウを吸収することもできる。もちろんコロナ禍収束後のインバウンド誘客の武器にもなる。
――国内展開では、新たに宿泊特化型の「プリンス スマート イン」の展開を始めた。
20年10月に「プリンス スマート イン 恵比寿」を開業。現在までに熱海と京都四条大宮にもオープンした。デジタル世代と呼ばれる20~30代の若年層がメインターゲット。ICTやAI技術を導入した非接触のサービスを基本とし、予約からチェックアウトまでをスマートフォン1台で完結する。チェックインは顔認証で行う。ニューノーマル社会で求められる「安全・安心」と若年層のお客さまが求める「スマートな滞在ニーズ」を同時に実現するホテルブランドというコンセプトだ。国内主要都市への積極出店を計画している。
――非接触・IT化の推進とヒューマンホスピタリティサービスの維持、提供は相反しかねないのでは。
デジタルにより、顧客データを蓄積し、多様化した個々のお客さまへのサービス向上、プリンスホテルのファンの拡大へとつなげていきたい。事務処理はデジタルで短縮し、ホテルにとって最も重要なホスピタリティサービスの提供に時間を充てる。そのためのDX推進だ。
デジタル化を追求したスマートインのサービスに価値を感じてくれる年配層も実際に存在する。デジタルとワントゥーワンのホスピタリティサービスを上手に融合したホテルがやがて求められるようになってくる。プリンス スマート インは、そのテストマーケティングの場としての役割も担っている。
――今後のロイヤリティプログラムは。
SEIBU PRINCECLUB会員が現在120万人いる。ベストレート保証や会員限定の特別なサービスの提供などでプログラムの魅力をさらに高めて、会員数をさらに拡大していきたい。同時に会員利用の比率を現在の20%台から40%程度までは高めていきたい。
――プリンスホテルは、国内のシティホテル・リゾートホテル事業を中核として幅広い事業展開をしている。総合シティホテルを含めた宿泊業は地域にとって必要不可欠な存在であるというお手本になってほしい。
地域の活性化に役立つホテルでありたいと常に考えている。今後の観光業の持続的な発展のためには「地域貢献」が重要なキーワードとなる。人々の心の豊かさに貢献していきたい。
(インタビュー実施日は21年11月15日)
小山社長
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