温泉地や観光地の旅館の経営課題の一つに人材の確保がある。景気の回復感に伴い雇用情勢の改善が見られる中で、優秀な人材の獲得に苦労する宿泊施設は少なくない。新卒者の採用などに向けて、地域の旅館関係者らは連携して検討や対策に動き出している。
北海道 働きがいPRへ
日本旅館協会北海道支部連合会の「北の旅館塾委員会」は、会員旅館・ホテルの次世代を担う後継者や幹部社員でつくる委員会。3月に開いた会合の研究テーマには人材の確保を据えた。就職情報を扱うマイナビ北海道支社の担当者に学生の就職活動に関する動向などを聞くとともに、メンバー間で人材確保の課題などについて意見交換した。
旅館・ホテル業は、正社員、非正規社員を含めて慢性的な人出不足にあると言われる。業務や待遇の問題のほか、就職前に抱くイメージとのギャップ、能力要件や昇進などの展望を示すキャリアパスの見えづらさなどが課題とされる。
同委員会の西野目智弘委員長(ホテル大雪)は「人気職種というわけではない旅館・ホテル業をどのようにPRし、どのようなところを改善すれば、より良質な人材を確保できるのか。各企業には仕事のやりがいを伝えられるよう取り組んでもらいたい」と話した。
東伊豆 東京で合同説明会
地域を挙げた取り組みで新卒者の人材確保に一定の成果を上げている温泉地もある。稲取温泉や熱川温泉など六つの温泉地がある静岡県東伊豆町では、町の補助金を活用し、大学、短大、専門学校の学生を対象とした旅館の合同就職説明会を東京都内で開催している。
「東伊豆温泉旅館合同企業ガイダンス」として4月22日に東京都港区の都立産業貿易センター浜松町館で開かれた。主催は東伊豆町商工会。温泉旅館11軒が出展、学生88人が参加した。各ブースでは経営者や社員が、企業の経営理念や特徴、総合職や客室係などの仕事の流れを学生たちに説明した。
合同企業ガイダンスは2010年度に始まり、当初は東伊豆町内で開催していたが、昨年度から会場を東京都内に移した。昨年5月、都内で初開催したところ、参加学生は従来の2倍に当たる約120人に増加。出展旅館11軒が今春に新規採用した学生40人のうち9人が合同企業ガイダンスの参加者だったという。
出展旅館の一つ、食べるお宿浜の湯の鈴木良成社長は「単独の旅館では難しくても合同で取り組めば、多くの学生を集めることができる。旅館業の業務や魅力について知らない学生も多い。ガイダンスを通じて理解を深め、旅館業を就職先として検討してもらいたい」と話した。
合同企業ガイダンスでは、出展旅館の経営者や人事担当者らが登壇するパネルディスカッションも行われた。参加学生が発言する場面もあり、「おもてなしの気持ちを伝えられる接客の仕事に魅力を感じる」「東京オリンピックの開催に向け、日本の魅力を外国人に伝えられる温泉旅館に将来性を感じる」などの意見が出ていた。
ガイダンスに参加した学生は今後、各旅館の採用活動へのエントリーを検討、各社それぞれの説明会や選考試験に進んでいく。
東京都内で開かれた東伊豆温泉旅館合同企業ガイダンス。旅館11軒が出展した