課題解決へ、地域・企業にさまざまな提案
――ソリューション事業本部のミッションについて。従来の法人営業統括本部との違いは。
今までの法人営業は一般団体、教育旅行、官公庁セールス、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)案件などを担っていた。それぞれ目標値を持っていたのだが、それをさらに明確化して、収支管理をしっかり行い、それぞれを発展させていこうというのが今回の組織改正の狙いだ。
従来はトータルの売り上げ目標さえクリアしていれば中身についてはあまり問われなかった。その点を見直し、それぞれの収支をしっかり見ていこうということだ。大手のメーカーなどで行われていることだが、われわれも取り入れた。
「公務・地域」「教育」「企業」「ビジネストラベル」の四つのソリューションを中心に事業を進める。それぞれ本社組織を明確に分けて、縦のラインをはっきりさせて事業を深掘りする。
――四つのソリューションについて、具体的に。
公務・地域は中央省庁と地方自治体がターゲットになる。教育は単に修学旅行を提案するのではなく、学校の運営全般に対してのソリューション。私学が中心になるが、産官学連携事業の提案も進める。
企業についてはMICEや親睦旅行など、人流を伴う案件に限らず、企業が取り組もうとしているさまざまな課題のソリューション。例えばSDGsの取り組みをわれわれがお手伝いするなどだ。
ビジネストラベルは、例えば企業の出張手配、管理に特化したクラウドサービス「出張なび」がある。従来は実際に使っていただいた分の代金を頂いていたが、今後は定額のシステム売りという形に収益構造を変える。
――新しい中期経営計画では、ソリューション事業の売上総利益を、計画最終年の2025年に会社全体の68%にするという。ツーリズム事業が32%と、その比率を逆転させる計画だ。
収益を拡大させるために人員のシフトを大胆に実施する。ツーリズム事業については、対面店舗の縮小分の要員を中心にソリューション事業に投下する。
――今年の数値目標は。
売り上げではなく収益を目標に置いている。そのうち公務・地域で5割以上を目指している。残りの3割が教育、ほかの二つで2割といったところだ。
昨年は社会課題にうまく対応したことで、大きくリカバリーできた。今年はその要素が少なくなると見ており、また社会動向いかんで数字ががらっと変わるので、目標も控えめに置いている。
――社会課題とはコロナワクチンの接種業務と思うが、会社の収益拡大に寄与したと。
最終的に収益につながったが、接種を促進することで1日も早く日常を取り戻す、という観点で一生懸命取り組ませていただいた。ほかにもパートナー企業と連携したPCR検査業務に取り組んでいる。また、日旅連会員の皆さまにも少なからずご協力いただいた。改めて感謝を申し上げたい。
――ソリューション事業でほかに旅館・ホテルに関係する部分は。
例えば観光庁の「既存観光拠点の再生・高付加価値化推進事業」について、当社は委託を受けている。お客さまに快適にお過ごしいただくための、あるいはお客さまを呼び込むための、地域全体へのコーチングを手掛けている。
「人流がないから何もできません」と言っているようではわれわれの存在価値はなくなる。下地作りで皆さまに貢献することが今の時期に必要と考えている。
――中計でマーケットが「コロナ禍以前には戻らない」とうたっている。
個人的見解として、個人旅行のマーケットは戻ると思う。インバウンドも含めて、コロナが完全に収束すればしっかり戻る日が来るだろう。
法人に関しては、MICEという大きな人流を生み出す要素があったが、今回、リモートワークだったり、ハイブリッド型のイベントだったりを経験し、芸能やスポーツは別なのだろうが、運営上、手間とコストをかけずに行う方法が広く実施された。そこに100%振れることはないだろうが、生かしていこうという動きが絶対出てくる。10年後にはそうなるだろうと思っていたのだが、コロナで一気に来たという感じだ。
――ソリューション事業主体の会社になることで旅行業の旗を降ろすことは。
中計を作るときにはそれぐらいの覚悟があったことは事実だ。ただ、さすがにそれはない。
旅行業は顧客の数も幅も最も多い業種の一つだと思っている。その特性を生かす。「旅行を含めてさまざまな提案ができますよ」という営業形態にする。
2020年に大きな赤字を経験し、侃々諤々(かんかんがくがく)と議論をして新しい中計を作った。しかし、この計画が正解かどうかは誰にも分からない。働いている社員の中には、「早く旅行業をやりたい」と思っている者も多いだろう。
ただ、今までの常識と価値観を変えていかねばならない。われわれは今後進もうとしている道を信じるしかない。将来的に、今の取り組みが絶対にプラスになるのだと信じて動こうと、社員には言っている。
――日旅連会員に向けて。
われわれは改革をして、今まで経験したことのない分野にも進出し、企業の存続に努めている。旅館・ホテルの皆さまにわれわれの取り組みを理解していただけるよう、できる限り努めていく。皆さまも大変な状況だが、今が将来に向けての大事な準備期間だという意識をもって、共に頑張っていきましょう。
日本旅行 舘常務
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