送客から誘客へ、着地目線で商品造成を
――新組織「ツーリズム事業本部」について。
今回、個人旅行に関わる組織を一元化した。
改正前、仕入れの機能は営業企画本部の企画・開発部長の指揮命令の下にあった。また、商品造成は個人旅行営業統括本部、販売機能を持つ各支店は営業本部の管轄にあり、それぞれの長のもとで事業を進めていた。今回、これら全てをツーリズム事業本部の管轄に置いた。
個人旅行営業は、今、伸ばしている非旅行業、ソリューション営業に比べると、収益性が低いという認識はあった。店舗レベルでは、一定の黒字は出ているのだが、個人旅行の事業トータルでどのぐらいの収支なのか。合算して明確にした上で改善を目指していこうというのが今回の組織改正の一つの目的だ。
また、仕入れ、造成、販売と、それぞれ指揮系統が異なり、それぞれの都合で動いていたので会社全体で仕事の最適化が図られていなかった。例えば商品は会社の戦略としてウェブに移行している。だが、片方にネット販売専門店、もう片方に店頭販売があり、それぞれが自分の都合で動いていると、会社全体の狙いと全く違う動きになってしまう。今回の組織改正でこれらの問題点を解消した。
――仕入れから造成、販売まで、今までと全く違う動きになると。
仕入れの拠点は15カ所あるが、ここに商品造成ができる担当者を配置した。今までの商品造成は発地目線で行っていたが、新しい体制では、主に着地を拠点に着地目線で行う。発地からの送客ではなく、着地への誘客と、目線を大きく変える。
各地の旬のコンテンツを生かした商品造成を、今まで以上にリアルタイムでできる。今までだと、発地から「こんな商品を作りたい」と、着地に対して注文を出していたのだが、これからは着地から「今はこれが旬なので、これを素材に誘客したい」と発地に発信する。今まで日旅連の皆さまからいろいろとアドバイスを頂いていたが、よりダイレクトに意見を反映させた取り組みができるようになる。
――今年度の販売目標について。
赤い風船は2019年がピークで、約1千億円を売り上げていた。21年は7割程度の回復を目指していたが、残念ながら年初からの緊急事態宣言でほとんどまともな旅行業を行えず、目標を達成できなかった。今年は前年の約2倍、ピーク時の5割ぐらいを目指している。
薄利多売の商売には限界がある。過去の成功体験をいったんリセットする。販売額が5割にしても、売り方を変えることで5割にとどまらない利益を残せるようにする。店頭とウェブの販売比率を今までの7対3から3対7に逆転させる。
赤い風船はおかげさまで今年発売50周年を迎えた。「持続と変化」をテーマに、お客さまに訴求する企画を打ち出したい。
親会社がJR西日本のため、JRと宿泊のセットプランにわれわれは強みを持っているが、その販売のスキルを磨き上げるとともに、着地におけるテーマ性を持った商品を充実させる。移動に伴う二酸化炭素排出量相当をオフセットできる「JRセットプランカーボンゼロ」も必要な取り組みだ。宿泊については温泉や料理に限らず、現地での体験を含めた着地全体の魅力を打ち出す企画を日旅連の皆さまとともに作っていきたい。
――今後の市場見通しは。
現在の第6波が収まれば、旅行需要は一定の回復に向かうだろう。ただ、今年中の完全収束は難しいかもしれない。経口治療薬の普及や、ウイルス自体の毒性が弱まってくればと期待しているのだが。
アウトバウンド・インバウンドは、まだ回復まで数年かかるのではないか。海外旅行好きのお客さまも相当いらっしゃる。高級リゾートなど、国内の高品質の旅へのニーズが、今の感染が落ち着けば顕在化してくるだろう。
バスに満員のお客さまを詰め込むような、密度の高い旅は許されなくなる。感染予防を含めた安心・安全の取り組みは、わざわざアピールするものではなく、当たり前になるだろう。そのような社会のニーズをわれわれはしっかり受け止めなければならない。
旅行消費という意識の高まりを受け、SDGsはマストの取り組みになる。われわれ旅行会社にしても、旅館・ホテルの皆さまにしても、これからさらに向き合い方が問われてくる。プラスチック排出ゼロ、カーボンニュートラル、食品ロスの解消など一つ一つがお客さまからの評価の対象になる。
耐震の法律が厳しくなったとき、旅館・ホテルの皆さまは直接集客につながらない部分で大きな投資が必要となり、大変な苦労をされたと聞いているが、今回のSDGsは集客にも関係する問題になる。未来志向の取り組みはお客さまにアピールできる。日旅連の皆さまと、このテーマについて考えていきたい。
――日旅連会員へ、さらに一言。
先ほど申し上げた地域に根差した事業展開による付加価値の創造。さらに、VRやお取り寄せでは得られない、旅の素晴らしさを再認識できる演出をお互い共創していければと思う。
今の時期にリアルに顔を合わせてお話しするのはなかなか難しいが、デジタルを活用し、方向性を共有できればと思う。表面上の話ではなく、本音をぶつける話し合いを進めていきたい。つらい時期がまだ続くと思うが、お互いに知恵を出して生き残りを図り、これからの観光業界の存在意義を世の中に示していきたい。
日本旅行 岡本常務
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