日本旅館協会、新体制の活動方針
「夢のある業界」へ議論 過剰債務、国と金融機関にしっかり話を
日本旅館協会の会長に6月就任した大西雅之氏(北海道・あかん遊久の里鶴雅)に、新体制の活動方針を聞いた。大西新会長は新型コロナ対策など喫緊の課題とともに、宿泊業界を「夢のある業界」にするための長期的視点に立った施策に取り組む考えを示した。
――6月9日の総会で第4代の会長に承認された。現在の心境を。
総会のあいさつでも申し上げたが、私で務まるのか、というのが一番の心配事だった。だが、業界が未曽有の危機。お受けした以上は弱気なことを言っていられない。
前任の浜野会長は、協会の規定(70歳定年)で1期2年で辞めざるを得なかった。だが、コロナ禍はまだ続いており、じくじたる思いがあっただろう。
浜野前会長とは新型コロナウイルス対策本部で共に働いた仲で、浜野さんからは「一緒に務めてきた大西さんに(会長を)引き受けてもらえれば」という話を頂戴していた。
大変な時期に重大な職責が務まるのか、崖っぷちに立ったような心境だったが、時間がたつ中で、ほかの副会長や委員長とさまざまな意見交換をしていくうちに、「自分1人で背負うわけではない」「これだけ力強い仲間がいる。人生の晩年にこのような危機を迎えて、それに立ち向かうのは非常にやりがいがあることだ」と意識が変わってきた。
――当面の課題は新型コロナ対策。
われわれはこの2年半、大きなダメージを受け、それぞれの宿で赤字が蓄積されている。過剰債務となり、その対策はわれわれの努力だけではどうにもならないところがある。政策的な人流と営業の制限により引き起こされたものであり、国や金融機関にしっかりと話をする必要があるだろう。
われわれにとって大切な従業員が離反してしまっている。募集をしてもなかなか戻ってこない。特に調理師の人材不足が大きな問題になっている。
コロナ禍で休館する施設が多かった。そのため経営者もスタッフも心身のバランスが崩れて、元に戻すのがなかなか難しい。
人材については、特に若い人たちにとって、われわれの業界が魅力のないものに映っているのではないかと危惧している。働き方改革や、外国人雇用の強化など、アフターコロナに向けて経営の仕組みを変えていかねばならない。
この2年半でマーケットが大きく変化した。修学旅行は戻っているが、一般団体が動かない。もちろんインバウンドもない。お客さまの旅に対する意識も相当変化している。今までのビジネスモデルが通用しなくなっているところもある。
マーケットの変化に対して、国は、ハードを魅力的に作り直す際の、さまざまな支援制度を出してくださっているが、それに対して積極的な宿と、そうでない宿がある。旅館協会としては、このような制度の活用・申請の方法について、会員の理解を進める必要がある。
課題は多くあるが、会長任期の1期2年間はあっという間に過ぎる。焦点をしっかり絞り、これらの課題解決に取り組む。
――コロナ対策以外では。
生産性の向上につながるデジタル化への対応が急務だ。会員の皆さまが意識改革をしていただけるような活動を進めたい。
象徴的な取り組みとして進めたいのが業界内情報伝達でのファクスの廃止だ。情報集約時にファクスの内容を再度打ち込むことはヒューマンエラーなどを起こし、労働生産性の低下につながる。
情報は、発信と返信で生きたものとなる。双方向性の高い「ライン」や「メッセンジャー」のようなツールを活用し、会員に響く情報発信と、解決に向かう返信、双方向でタイムリーな情報交換を実現する施策を今進めており、会員皆さんに有効活用いただきたい。
紙で残るファクスにこだわっている人もいらっしゃるが、業界の効率化に協力いただきたい。
――国の旅行需要喚起策について。
Go Toが中断し、新たな需要喚起策「全国旅行支援」も延期となった。早期に再開してもらいたい。
予算が一部国庫に返納されたが、息の長い支援を継続いただくためにも、返納分とインバウンド復活までの継続分の獲得を目指したい。
これほどまでの予算は必要ないのではとの声が一部で聞かれるが、われわれが背負った過重債務を克服してゆくためには、大きな波を、しかもある程度長期にわたって起こしていかなければ、健全経営を取り戻すことができない。
インバウンドは、今まで頼ってこられなかった地域もあると思うが、今後は一定数を取り込んでいかなければ今まで以上の成長は難しい。インバウンド市場のさらなる開放も国に要望したい。
インバウンドは2020年までに4千万人、2030年までに6千万人にするという目標を掲げているが、もう一つ重要な視点は観光消費額だ。人数や混雑具合がクローズアップされ、結果、観光公害、オーバーツーリズムという言葉で、観光地の魅力が失われたかのような、また、忙しさだけが残ってしまった印象がある。
残念なことにインバウンドはゼロリセットされたが、これを良い機会とし、今後は人数の論理からいったん離れて、質の高い、地域にお金が落ちる観光を目指すべきだ。国に対してしっかり訴えていく。
――委員会は従来の三つから四つに拡充された。
仮称「未来ビジョン委員会」を新たに立ち上げた。われわれが進むべき方向性を具体的に議論する場だ。われわれの業界を次の世代につないでいくために、「夢のある業界」に今のわれわれがしていかなければならない。次の世代を担う若者に限らず、今の経営者やスタッフにとっても、夢のある業界にするための具体的方策を議論する。
大きなテーマになるのがサステナブル、SDGsだろう。持続可能な、何代にわたっても持続できるような企業や観光地にしていくための具体的なビジョンを示す。同業者に限らず、これからこの業界を担うべき若い人たちにも示していく。
――会員旅館・ホテルにメッセージを。
社会の変化が速い。生き残るために、われわれも変化し続けなければならない。そのためには経営者自らが変わらなければならない。
私たち日本旅館協会は、そのために必要な情報や手段を提供し、会員から頼りにされる組織となるべく体制を整備してまいります。会員の皆さまのご理解とご協力をよろしくお願い致します。
【聞き手=森田淳】
大西雅之会長