日本温泉協会(笹本森雄会長)は3月26日、要望書「自然公園法・温泉法の規制緩和は慎重に秩序ある地熱開発を要望します」を環境相、経済産業相、行政改革担当相に提出した。
要望書の全文は次の通り。
◇ ◇
日本温泉協会は昭和4年設立以来、温泉研究者、温泉事業者、温泉に関わる自治体や企業、団体、一般の温泉愛好家の方々が、旧内務省(現在は環境省)、旧鉄道省(現在は国土交通省観光庁)の指導の下、温泉の調査、研究、広報を事業として活動してまいりました。中でも地熱開発に伴う源泉枯渇、泉質の変化、湯温の低下問題は全国各地の温泉地から事例が報告され、当協会内に設置された地熱対策特別委員会で長年にわたり対策を協議してきたところであります。
当協会は「無秩序な地熱開発に反対」しております。2012年9月6日、2015年5月20日と2回にわたり、地熱開発反対の要望書を提出しました。当協会の基本的な考えは変わっておりません。大規模かつ大深度掘削による地熱開発が温泉源に影響を与えることは間違いないと考えます。
しかし、当協会は地熱開発の全てに反対のための反対をしているわけではありません。地域活性化のための小規模発電には大いに期待するところでありますが、バイナリー発電については、大深度掘削、大規模発電と異なり、規制基準が緩く、さらに浅い層の熱源を使うことが多いため、温泉事業者とトラブルが発生し始めている現状が散見され、各県による地熱開発基準案策定が急がれる状況です。
2018年より当協会では資源エネルギー庁や独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)との地熱発電に関する意見交換会を再開しました。2020年からは環境省もオブザーバー参加をお願いし、温泉の保護と活用のため、協議を続けております。この協議の中で地熱開発側もかつての地熱開発ありきという姿勢を改め、地熱発電には温泉枯渇などのりスクが伴うことを理解されたと認識しています。
当協会は、地熱発電開発を行う場合には、現在以下のとおり、五つの条件を満たすことを提案しております。
(1)地元(行政や温泉事業者等)の合意
(2)客観性が担保された相互の情報公開と第三者機関の創設
(3)過剰採取防止の規制
(4)継続的かつ広範囲にわたる環境モニタリングの徹底
(5)被害を受けた温泉と温泉地の回復作業の明文化
開発に当たっては、以上の条件を満たした「秩序ある地熱開発」を行うことで限りある貴重な資源である日本の温泉を保護し、温泉法の運用を定めたガイドラインも活用して、地熱開発側と温泉事業者側、さらには環境保護団体や地域住民等が同じテーブルにつき、調整のため行政が間に立ち、慎重に協議を進めていくことを今後も要望いたします。
また、菅義偉首相が2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標を掲げたことに鑑み、2050年までに排出量実質ゼロを宣言した自治体に再生可能エネルギーの導入を補助金で支援するとの話を伺っています。自然公園法についても、国立・国定公園が位置する地域は地熱ポテンシャルが高いということもあり、再生可能エネルギーの導入加速化(地熱開発)に関しては、これまで平成24年と平成27年に2段階で国立・国定公園の規制を緩和し、特別地域でも地熱開発が可能になっています。これらの規制緩和を受けて、全国の国立・国定公園内では着実に開発(掘削調査や環境アセスの手続きなど)が進んでいます。
国策として脱炭素社会への移行を目指すことに異論はございませんが、補助金ありきで拙速な議論によりさらなる規制緩和を促すことは、自然公園法の下で長年維持されてきた自然環境を破壊することにつながり、将来に禍根を残すことになるのではないでしょうか。温泉地は温泉とその周辺の優れた自然環境と一体となって地域の資源となり、多くの観光客を呼び込むことで地域経済に大きく貢献しています。このため、当協会は今回の議論の中で自然公園法が地熱開発促進の障害になっているのではないかとの声が出てくることを危惧しております。自然公園法が地熱開発の障害になっているとは思いません。
温泉地の保護と活用の観点からも、地熱開発のための自然公園法・温泉法の規制緩和に関しましては慎重な議論を積み重ねられますことを要望するものであります。