東京の宿泊施設、独自の策で生き残り 


海外からの激励の手紙を手にする旅館澤の屋の澤さん

日帰り入浴やテレワーク 「地域との関係が支えに」

 コロナ禍で苦しむ観光業界を支援する国の「Go Toトラベルキャンペーン」や自治体による各種のキャンペーンが行われる中、東京都内の宿泊施設はこれらキャンペーンの対象外となるなど支援の恩恵を受けていない。インバウンドも当分見込めない厳しい状況の中、都内の宿泊施設は独自の策で生き残りを図っている。

 東京の下町、谷中にある「旅館澤の屋」は、昨年創業70周年を迎えた老舗の旅館だ。全て和室の12室の宿を主人の澤功さんら、家族5人で切り盛りしている。

 もともと商用客や修学旅行客を中心に受け入れていたが、1982年から訪日外国人客の受け入れに方針を転換。家族的サービスが好評で、以来30余年、客室稼働率が90%を超えるまでの人気の旅館となった。これまでに92カ国、延べ20万人の外国人客を受け入れている。

 しかし新型コロナウイルスの感染拡大で、館内を埋めていた宿泊客が一気にゼロになった。「4月は600人のお客さまの予約が入っていたが、全てキャンセル。お客さまが来ず、館内が真っ暗になった」と澤さん。国内客は少しずつ動きだしたものの、海外からの客は当分期待できない。海外客が9割を占めていた同館だけに、直近の宿泊予約も全盛期とは比べものにならない状況だ。

 しかし、来春以降に泊まる海外からの宿泊予約が徐々に入ってきた。「頑張れ」「行けるようになったらすぐに行くよ」という激励の手紙やeメールも届いた。「来春まで頑張ればお得意さまが帰ってくる。そのときに澤の屋がなくなっていてはいけない。何としても生き残らなければ」。澤さんは決意を新たにした。

 まず、考えたのが日帰り入浴。館内の二つの浴場を45分間貸し切りで利用してもらう。4月3日にサービスを開始し、料金は銭湯とほぼ同じ1人500円。坪庭をながめるひのきと陶器の2種類の風呂が好評で、地元の人を中心に利用が増えている。1組入るごとに澤さん夫妻が清掃と消毒を念入りに行う。

 町内会への参加など、もともと地域とのつながりが強かった同館。静かになった宿を応援しようと、地元の人たちが泊まりに来てくれた。そのとき、客の1人が提案したのが日中の部屋貸し。テレワークをするビジネスマンらに客室を利用してもらうのだ。

 4月9日から始めた新たなサービスは、午前9時から午後7時までの客室の利用で、貸し切り風呂の利用もできて1人3300円。ビジネス客のほかにも、旅行気分を味わいたいという都内や近郊のファミリーから引き合いがある。

 「澤の屋は街の人に支えられている」と澤さん。もともと素泊まりか朝食付きのスタイルで、夕食は近所の飲食店などを利用してもらっていた。「街がお客さまを受け入れてくれたことで、澤の屋が成り立ってきた」というが、街の活性化に澤の屋が寄与してきたことも間違いない。

 地域との良好な関係が、今の澤の屋の支えになっている。

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