東京都旅組、「民泊の違法営業に断固反対」


 東京都大田区が9月29日、国家戦略特区での旅館業法適用除外の条件となる条例の制定を年内にも実現したい考えを示した。条例が制定されれば、同区内で外国人を対象とした、マンションなどの空き部屋を利用した「民泊」の運営が国内で初めて可能になる。東京都ホテル旅館生活衛生同業組合は、「(条例案は)陳情で挙げたわれわれの要望事項がほぼ網羅されている」として、条例の制定を容認する構え。ただ、条例の範囲を外れたり、特区以外の場所で行う無許可の民泊営業には、旅館業界の総意としてあくまで反対の姿勢だ。

 大田区が発表した「旅館業法の特例、医療機器における薬事承認の迅速化について」の中で、「外国人滞在施設経営事業」について言及。「訪日外国人客の増加等を背景に、区内旅館等の客室稼働率が上昇。2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催に向け、外国人来訪者のさらなる増加が見込まれている」とした上で、「宿泊施設の不足が見込まれる中、羽田空港を擁する『国際都市おおた』として、安全性や衛生面に配慮した滞在施設を提供する環境を整備するため、旅館業法の特例を活用する」とした。

 条例の制定は今年中を目指している。区議会に宿泊客の最低滞在日数(7〜10日)や、行政の宿泊施設への立ち入り権限などを定めた条例案を提出する。

 同区ではまた、「建築基準法第48条によりホテル・旅館の建築が可能な用途地域に所在する施設において、外国人滞在施設経営事業を実施する」と、区内で民泊営業ができる地域を商業地域、第二種住居地域などに限定するとしている。

 同区は13〜26日、ホームページなどで同事業についてのパブリックコメントを募集。11月9日に開かれる大田区の蒲田ホテル旅館組合の例会には区から数人が参加する予定だ。

 宿泊施設の営業を行うには、衛生や防災の設備を備えた上で、旅館業法上の旅館営業、ホテル営業または簡易宿所営業の許可を都道府県知事または市区長から取らなければならない。

 昨年4月1日に全面施行された国家戦略特別区域法の第13条で、「旅館業法の特例」として、特区に指定された地域に限り、外国人客を対象とした、民家を使った宿泊施設の運営が可能となった。ただ、営業できる施設は「1居室の床面積が25平方メートル以上」などと政令で定められている。

 政令で定められた国家戦略特区は、宮城県仙台市、秋田県仙北市、千葉県成田市、東京都、神奈川県、新潟県新潟市、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県、福岡県福岡市、沖縄県。今年8月28日に対象範囲が広がり、仙台市、愛知県などが新たに追加。東京都では千代田区、中央区など9区から多摩、島しょ部を含めた都内全域に区域が拡大した。

 東京都旅組では、一連の規制緩和の動きに当初は反対の姿勢を示していた。昨年、都内各区や都議会自民党観光産業振興政策研究会に対し、「旅館業法適用の施設のみで今後の需要に十分耐えうる供給量を持ちながら、国家戦略特別法により外国人滞在施設に旅館業法適用除外を認めることは、治安維持や公序良俗に大きな影響を与え、オリンピックという大切な舞台で犯罪行為の温床、テロ行為の助長にもなりかねない」と、特区内での旅館業法の適用除外を行わないよう要望。全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)を通じ、厚生労働省にも働きかけた。

 ただ、「インターネットを利用した違法営業の民泊が横行している。特区制度の利用で民泊施設が行政に登録されることで、違法営業の施設が浮き彫りになる」と、当初の方針を変更。

 「国家戦略特区に反対するものではないが、利用者および近隣住民の安心・安全を確保するために」として(1)営業申請登録を管轄の保健所、消防署、警察署に提出させること(2)宿泊者全員のパスポートの写しを取り、宿泊日と滞在期間を明記の上、宿泊記録として保管すること(3)宿泊場所には年1回警察署、消防署が立ち入り、宿泊記録と防火設備を確認すること—などを求めた。

 7月31日、内閣府地方創生推進室長、厚生労働省健康局長の連名で全国の都道府県知事、政令市市長らに「外国人滞在施設経営事業の円滑な実施を図るための留意事項について」とする通知が出されたが、旅館業界の要望がほぼ網羅された形だ。大田区の案はさらに一歩踏み込んだ形で、民泊営業ができる範囲を商業地域などに限定した。

 東京都旅組は今月、自民党東京都支部連合会に対し、都内の他の区市が条例を制定する場合も、この通知内容を守るよう要請している。条例は単独で保健所を持つ23区、八王子市、町田市がそれぞれの区市、ほかの市町村は東京都が制定する。

 東京都旅組の齊藤源久理事長は「大田区の案はわれわれの要求がほぼ通ったもので、民泊営業の禁止地域を作るなど、さらに一歩踏み込んでいる。相当規制がかかった形の民泊になっている」と今回の同区の方針に一定の理解を示す。ただ、「インターネットを使った違法営業は容認できない。振り込め詐欺やテロの温床になる可能性がある。脱税の疑いもある」と、法を逸脱した営業には断固反対する構え。

 一部で議論されている、民泊をホテル、旅館、簡易宿所、下宿に続く5番目の宿泊施設カテゴリーに位置付ける旅館業法の改正案には慎重な考え。民泊が特区にとどまらず全国に広がると、旅館業界で反対意見が強い。

 
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