根づくか「おもてなし検定」、認知度アップが課題に


5月に行われた上級資格の面接試験の様子

 日本旅館での「接遇によるおもてなし」の心と技術を育む「日本の宿 おもてなし検定」。昨年まで初級、中級の2本立てだったが、今年初めて上級試験が実施され、7月6日に5人の合格者が誕生した。宿泊業界全体の資格・検定制度とするべく、2008年に旅館団体を中心に運営組織が立ち上がってから9年目、ようやくここまで漕ぎ着いた。試験の駒はそろったが、制度の確立はこれからが正念場だ。

 「よろしくお願いします」。5月12日、東京都千代田区にある都道府県会館の一室。上級試験の受験者が、表情を隠した審査員たちに囲まれ、やや緊張した面持ちで二次試験の面接に挑んだ。

 中級資格を持ち、かつ実技試験にパスした人が上級試験を受けられる。対象となる90人のうち、第1回上級試験には27人が申し込み、見事に5人が合格。初級、中級の合格率が50%台なのに対し、上級は18.5%という狭き門だった。

 合格者の一人、横尾小百合さん(伊香保温泉・ホテル木暮)は「自分のおもてなしスキルを高められる」と受験した。接客課主任の立場であり、身につけた技能を「若い新入社員の育成にも生かしたい」と話す。

客の満足と感動を
 日本の宿 おもてなし検定は、日本旅館協会や全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会、日本観光振興協会、JTB協定旅館ホテル連盟で組織される「おもてなし検定委員会」(後援=観光庁、厚生労働省)が運営する資格・検定制度。日本旅館での「おもてなし」については、(1)施設・設備(2)料理(3)接遇(4)周辺の環境—の四つの商品を、(1)お客さまの立場に立って考え(2)お客さまの望むものを(3)お客さまの望む時と場所で(4)心を込めて提供する—四つの心と行動によって提供することと定義する。最終目標は「お客さまのより大きな満足と感動」を実現することとしている。

 おもてなしは施設・設備や料理、接遇、周辺の環境を含めた総合的なサービスとして幅広くとらえる必要があるが、検定では、その中での接遇によるおもてなしを中心に考え、次の三つを主な目的とする。(1)接遇によるおもてなし業務の標準化を推進し、旅館業界における「接遇力」の向上に寄与する。(2)「標準」を超えてさらにおもてなしのレベルを向上させようとする人材の育成、支援に寄与する。(3)社会や生活全般(衣食住)の「グローバル化」「IT化」が進行する中で、日本の伝統文化を受け継ぐ数少ない空間として存在感を増す日本旅館に働くスタッフの成長に貢献する。

伸びない申込人数
 初級は「お客さまから『好感』を得られるレベル」、中級は「お客さまのご満足と明確なプラス評価をいただけるレベル」、上級資格は「お客さまに『感動』していただける『カリスマ』レベル」と位置づけている。

 16年度の初級、中級試験は9月13〜30日に実施される。そこで15年度の数字で見ると、第7回初級試験には2432人が受験し、1338人が合格。第6回中級試験は受験者978人、合格者529人だった。現在までに初級合格者1万3731人(第1〜7回累計)、中級合格者3487人(第1〜6回累計)を数え、年々着実に資格者を輩出している。

 しかし、検定委員会が目標とする「宿泊業界全体の資格・検定制度」として定着しているかというと、まだ脆さがある。

 昨年度の初級の申込人数は過去最高だった前回に比べ約900人も減少し2639人、中級は前年並みの1033人だった。第1回からの推移を見ると初級、中級ともほぼ横ばいと言えるものだ。

 検定委員会の小口潔子委員長(磐梯熱海温泉・四季彩一力会長)は、「参加する旅館がまだ限られている。もっと広く参加を呼び掛けていかなければならない」と課題を指摘する。おもてなしの習得を目指す一般の受験者が増えているが、旅館・ホテルに対する認知度とアピール力が不足しているのが実情だ。

従業員の満足も
 上級試験合格者の最高齢は70歳(受験時)の中田明美さん(宇奈月温泉・延楽)。65歳で定年となり、今は嘱託として働く。「自分の心掛けがいかに通用するか確認したかった」と受験理由を明かす。おもてなしを「自分の心掛け」の力量ととらえるのは、その道を究めた結論だ。「現場が好きで、お客さまの喜ばれる顔が見たい」と接客業に生きがいを見出す。

 旅館は働きがいのある素晴らしい仕事場だ。おもてなし技術の向上と仕事の「やる気」アップが連関する仕組みも作られ、検定制度の存在が顧客満足と従業員満足の二つに結び付くのが理想形だ。

 
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