ストーリーで訪日客に訴求 観光産業の安定的な成長を
楽天グループは1~4日の4日間、ビジネスカンファレンスと体験イベント「楽天オプティミズム2024」を東京ビッグサイトで開いた。2日のビジネスカンファレンス「持続的な観光まちづくりに向けて」には、楽天グループ常務執行役員トラベル&モビリティ事業ヴァイスプレジデントの髙野芳行氏と長野県白馬村の村長で信州白馬八方温泉の旅館「しろうま荘」の経営者でもある丸山俊郎氏が登壇した。
丸山村長は現在49歳。大学卒業後、オリエンタルランド勤務、豪州でのワーキングホリデーなどを経験後、実家の旅館しろうま荘に戻り支配人となり、2012年ワールド・ラグジュアリー・ホテルアワードのスキーリゾート世界一を受賞した。14年から白馬高校の非常勤特別講師として観光英語を担当。16年ラグジュアリー・トラベルガイド・アワードのホテル支配人世界一受賞、18年ワールドワイド・ホスピタリティ・アワードのベストホテリエ・グランドファイナリストとなり、22年に白馬村長に就任した。
壇上のセッションは髙野常務が丸山村長にインタビューする形式で進められた。
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髙野 豪州でのワーキングホリデーを経験されている。
丸山 大学を卒業した年に長野五輪が開催された。白馬村も競技開催地となり、リフトや宿泊施設に多額な投資が行われたが、回収可能なのかという疑問を感じていた。変わらない自然環境だけに頼らず、ホスピタリティ、エンターテインメント性といったソフトの力を外で学びたいと思った。また国内の限られたスキー人口を各地で取り合うのではなく、グローバル集客を目指す必要があると当時から思っていた。
髙野 しろうま荘は一見、普通の旅館なのに世界的な賞を受賞され、インバウンド客が絶えないのはなぜか。
丸山 家族経営なので、大きな投資はできなかった。白馬村は民宿発祥の地。登山客を泊めたり、しろうま荘のように農家と兼業していたり。農家民宿は日本人よりも海外の方の方が価値を感じてくださるはずだと思い、背景にあるストーリーなども含めて英語での情報発信に注力した。ストーリーを伝える手法はディズニー(オリエンタルランド)で学んだ。宿の夕食では私の母親が自分の畑で取れた野菜について片言の英語で説明したり、私が地酒を並べてテイスティングをやったり。こうした素朴なおもてなしが喜ばれている。和室に低床ベッドを入れる予算もないので、今でもマットレスを3段、4段重ねてベッド風にしているだけなのだが、欧米人客は十分喜んで連泊してくださっている。
髙野 22年、村長に当選された。
丸山 白馬村は観光立村。住民生活の一切に観光が関係しており、住民の7割が観光業関係者だ。観光産業が安定的に成長し、潤うことが、村全体にとって最も重要であるという意識を観光事業者の時から強く持っていたし、地域全体のことを常に考えて行動していた。村長という立場が自分の経験、能力が最も発揮できて、地域貢献ができるポジションだと感じ、立候補し、当選させていただいた。
白馬村は昨年、国連世界観光機関(UNツーリズム)のベストツーリズムビレッジに選ばれたのだが、見方によっては日本のどこにでもある原風景を1分間の動画で提出した。パウダースノーの雪質と合わせてご評価をいただけたようだ。
楽天・髙野常務(右)と丸山白馬村長(中央)のトークセッション