温泉地 人材確保に苦心 環境省、「新・湯治」セミナーで事例紹介


陣屋代表取締役・女将 宮﨑知子氏

 温泉地の活性化を目指す環境省の取り組み「チーム新・湯治」のセミナーが7月25日、東京都内で開かれた。テーマは「温泉地で働く魅力と人材確保策」。コロナ禍から観光需要の回復が進む中、温泉地では、宿泊産業における従来からの構造的な課題だった人手不足が深刻化している。セミナーでは、地域を挙げた人材確保・育成・定着の取り組み、温泉旅館におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)を通じた働き方改革などの事例が紹介された。

 環境省の温泉地保護利用推進室の坂口隆室長は「温泉地では、従来から続いている働き手の高齢化、若年層の就職率の低下に加え、コロナ禍でいったん離れた人がなかなか戻らないことで、人材不足が大きな課題となっている。こうした課題の解決に向け、先進的な事例の紹介やディスカッションを通じて、温泉地で働く魅力の発信方法、人材確保策について皆さまと考えていきたい」と述べた。

 

◆群馬県・四万温泉協会会長 田村佳之氏(時わすれの宿佳元)

群馬県・四万温泉協会会長の田村佳之氏

 四万温泉は、1954年に酸ケ湯温泉(青森県)、奥日光湯元温泉(栃木県)とともに第1号として指定された国民保養温泉地。日帰り、宿泊を合わせた観光客数は、コロナ禍前には年間35万人程度で推移していた。

 地域の人口減少が進み、宿泊施設や商店などの後継者、担い手不足が深刻化している。86年当時は宿泊施設が45軒、商店が88軒営業していたが、現在は宿泊施設が32軒、商店が40軒となっている。「経営が悪化して廃業したというより、後継者不足で廃業せざるを得なかったところが多い」。

 夜間や繁忙期に営業できる飲食店が減少し、宿泊施設では、新しい調理人がなかなか雇用できないのが現状。「30室以下の家族経営の旅館が多く、1人の板前さんでやっているところもある。板前さんが高齢で辞めると次が見つからず、素泊まりなどに転換するところもある。泊食分離は必然で、もしかすると温泉地としてセントラルキッチンを考える必要が出てくるかもしれない」。

 人材確保では、四万温泉全体を「家族」と捉え、事業所の垣根を越えて地域一体で新入社員を育成する「一山一家プロジェクト」を2014年に開始した。合同入社式に始まり、地域の環境整備活動、親睦会、セミナー、地元の観光資源の体験会などを通じて人材の育成、定着を進めている。

 コロナ禍前には、一山一家プロジェクト参加施設における新入社員の離職率が低下するなどの成果を上げた。「なかなか人材が集まらない中、外国人スタッフを含めて横のつながりを持ち、温泉地全体で一つの山、一つの家族であるという思いで取り組んでいる」。

 新たな試みとして6月からは、四万温泉人財保全基金として、スマートフォンなどから寄付を募るデジタル募金を開始した。旅行者や四万温泉のファンからの寄付を人材の確保・育成の財源として活用する。

 

◆陣屋代表取締役・女将 宮﨑知子氏(神奈川県・鶴巻温泉)

陣屋代表取締役・女将 宮﨑知子氏

 宮﨑氏は、2009年、修業期間や引き継ぎのない突然の世代交代で経営危機に直面していた旅館を夫と共に受け継いだ。売り上げアップと経費削減という業務改善をせまられる中、情報の「見える化」やPDCAサイクルの高速化など、自社の経営改善方針を早期に実現しようと、旅館に特化したクラウド型基幹システム「陣屋コネクト」を独自に開発した。

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