客室乗務員が地域に貢献 移動通じたつながりを強化
今年4月、日本航空(JAL)の東京支社長に客室乗務員出身の西原口香織氏が就任した。地域活性化事業や女性活躍に向けた取り組みなどについて聞いた。
――これまでのご経歴と現在の心境を。
客室乗務員としてJALに入社後、キャリアを積み、その後当時航空券販売を担っていたジャルセールスで通算6年半営業に従事した。今3月までは熊本支店長として地域活性化につながる旅行商品やイベントの企画・運営にも携わり、地域の皆さんと力を合わせて作り上げることの大切さを学んだ。東京支社長に就任してからも学ぶべきことは多いが、「ニーズも課題も答えも現場にある」という点は変わらない。お客さまとの対話を通じて課題を見つけ、解決策を提案していく中でこれまでの経験が生かされていると感じている。
――今年4月、JALがジャルセールスを吸収合併した。その背景は。
コロナで人の移動が止まり、収益構造や消費者行動が急激に変化したことを受け、より持続可能な体制を構築し、ジャルセールスの営業力を最大限発揮してもらうべく統合する運びとなった。統合後はジャルセールスの資産を最大限活用し、顧客ニーズや社会課題に適したソリューション提案を行っている。
――ソリューション営業本部では、地域活性化事業も手掛けられている。
現役の客室乗務員で構成する「ふるさとアンバサダー」「ふるさと応援隊」等の取り組みを展開している。ふるさとアンバサダーは客室乗務員が地域に移住し、住民との対話を重ねながら課題解決に取り組むもので、活動する22人のうち2人の海外基地乗務員(タイ・台湾)は「ふるさとアンバサダーGLOBAL」として活躍している。一方、ふるさと応援隊はフライト業務と並行しながら地域イベントなどに参加。直接地域に足を運ぶことで盛り上げに大きく貢献している。
熊本支店長時代には、アンバサダー活動の一環で熊本県人吉市出身の客室乗務員と共に2020年に球磨・人吉地域で発生した豪雨災害からの復興をテーマとした旅行商品の企画に携わった。くま川鉄道の特別列車内での車内アナウンスや球磨焼酎の飲み比べ、青井阿蘇神社の見学など地域性を生かしたコンテンツを造成。地元の方々に「JALさんでなければ実現しなかった」と喜んでいただいたことが大きな励みとなった。
――貴社は女性社員が多い印象だ。サポート制度は充実しているのか。
実は、JALグループの従業員の男女比は5対5。女性のみが使えるサポート制度は出産前後の休職で、それ以外は男女共通で利用できる。制度を取得しやすい雰囲気作りにも注力しており、管理職には社員の制度活用を後押しする教育を実施し、適切な声掛けやサポートを促している。
15年には組織横断・ボトムアップ型のダイバーシティ・プロジェクトとして「JALなでしこラボ(現JAL DEIラボ)」を立ち上げ、女性という性別に限らず、多様な属性、個性の社員の活躍に向けた提言や、社員が自分事としてDEIを捉えられるようなさまざまな発信を行っている。トップダウン・ボトムアップ型の取り組みを組み合わせ、誰もが制度を活用しやすい風土を作っていきたい。
――女性が活躍する社会を実現するためには。
先輩を作ってあげることが大切だと思う。当社の女性役員は8人で、うち5人が客室乗務員出身。私も社長の鳥取とフライトを共にした経験があり、先人の存在が、次世代の女性がリーダー像を描く支えになると実感している。加えて、リーダー層から本人への「意識付け」を日ごろから図ることも重要だ。
当社は25年度末までに女性管理職比率を30%にする目標を掲げている。今年3月時点で29.8%に達したが、これに満足せず、さらなる女性の活躍推進に向けて取り組んでいきたい。
――今後の事業展開は。
今年8月に「JAL FUTURE MAP」を公開した。これは「移動を通じた関係・つながり」を創造する未来像を描いたもので、さまざまなバックグラウンドを持つ社員が協力して制作し、マイルライフ事業やドローン配達事業など、移動を通して人と人とのつながりを広げる多くのアイデアを盛り込んでいる。具体的な取り組みの第1弾として、学びを目的とした地域体験プログラム「旅アカデミー」を開始した。今後も移動を通じたつながりをさらに強化し、お客さまや社会との関係を深めながら社会貢献と新たな価値の創出を実現していく。
にしはらぐち・かおり氏 1999年日本航空入社。客室フライトオペレーション部クルーサポートグループマネジャー、九州支社熊本支店支店長などを歴任。24年4月執行役員、東京支社長、ソリューション営業本部副本部長。
【聞き手・編集部 溝部あゆ美】