気象庁が箱根山(神奈川県箱根町)の噴火警戒レベルを「2」(火口周辺規制)に引き上げたことを受け、関係行政と同町観光関係者らが警戒を強めている。風評被害による旅館・ホテルの宿泊キャンセルや土産店の売り上げ減少の懸念が強まっており、一部では影響が出始めている。関係者らは、噴火のおそれがある場所は大涌谷に限られ、他の町域に危険がないことを強調して、風評被害の回避に全力を挙げている。
同町では7日、箱根温泉旅館協同組合と今後の対策を協議。県も同日、緊急対策会議を開いて風評被害防止に向けて、正しい情報の発信を強化していくことを確認した。
県や町はホームページで、箱根山に関する正確な情報の発信を強化しており、風評被害の払拭に全力を挙げている。また、町では外国人観光客向けに外国語による規制区域図を制作した。
さらに、黒岩祐治知事は6日にメッセージを発表。この中で黒岩知事は「1月に鹿児島を訪問し、桜島の火山対策を徹底研究するなど、神奈川県は県温泉地学研究所とともに、以前より箱根火山の噴火対策をしっかりとやってきている。特に御嶽山の噴火を受けて、対策の具体化を加速させてきている。4月28日も大涌谷周辺で情報伝達訓練を行ったばかり」と、万全な対策を取っていることを強調した上で「箱根は広い。警戒情報の対象地域は一部。県が発信する情報をご覧いただいた上で、冷静に対応してほしい」と呼びかけている。
同町の山口昇士町長も観光客向けのメッセージを発表し、大涌谷以外の町域の安全を強調している。
地元の旅館・ホテルには、噴火警戒レベル引き上げに伴い、宿泊予約のキャンセルが出始めている。小田急電鉄や藤田観光といった箱根観光関連企業の株価も下落傾向にあるなど、経済にも影響が出始めた。
東京商工リサーチは8日、同町の観光関連企業調査の結果を公表した。同町に本社を置く企業のほぼ半数は観光関連で、昨年は売り上げが好調だった。しかし同社では、噴火警戒が長期化した場合、風評被害が懸念されるとして警戒を促している。
同社の調べによると、同町に本社を置く企業は258社。このうち、観光関連企業(旅館・ホテル業など)は115社(44.5%)を占め、町の基幹産業になっている。内訳は、サービス業77社(宿泊業50社を含む)、土産物販売など小売業22社、旅館向け食料品販売などの卸売業12社—などとなっている。
2014年の同町観光関連企業(前年と比較可能な64社)の売上高は、計345億9681万円で、前年比3.0%増。増収幅は全業種との比較で0.7ポイント上回り、全業種の売上高合計に占める観光関連の構成比も59.1%に達するなど、まさに観光関連企業が、同町経済をけん引していると言える。
今後の同町経済について同社は、これまで積極的な営業や外国人観光客の増加から、観光関連企業が勢いに乗り、同町に本社を置く企業の売上高は増加傾向にあると見ていた。しかし、噴火警戒レベル引き上げで、町は観光客の安全を確保するため、一部規制に踏み切った。現状の規制は一部地域にとどまっているものの、同社では、噴火警戒が長期化した場合の風評被害について懸念を示している。