著作権、隣接権ワンストップ オンラインで簡単に手続き
結婚式で使用される楽曲の著作権使用手続きを代行する音楽特定利用促進機構(ISUM=アイサム、東京都渋谷区)が設立10周年を迎えた。理事の岸原孝昌氏に機構設立の経緯と、今後の展望などを聞いた。
――ISUM設立の経緯は。
「プロフィールムービーなどを制作する映像制作会社などから市販音源を結婚式で簡単に使用したい、というニーズが多いことを知ったことが理由で、日本レコード協会や、日本音楽著作権協会(JASRAC)などとの協議を経て発足した。年間10万~20万件ともいわれる結婚式で使用する楽曲の使用許諾を1件1件手続きするのは使用者も楽曲の権利者も手間がかかる。それまでは、適法に利用できていなかったのではないか」
――JASRACでは手続きはできないのか。
「JASRACは作詞家、作曲家が持つ著作権の権利を守る役割があるが、著作隣接権には対応できない。著作隣接権は、著作物を伝達する者に与えられる権利で、音源を制作・販売するレコード会社などが持ち、許諾するしないを判断できる。複製といわれる利用方法は、著作権・著作隣接権両方の手続きが必要となるため、JASRACだけでは手続きは不十分。ISUMの最大の強みは、この著作権と著作隣接権をワンストップで手続きできることで、簡単に合法的に楽曲を利用できることだ」
――2014年4月からサービスが開始された。
「ブライダル業者から結婚式で使用したい楽曲を調査し、当初はその中で許諾された500曲からスタートした。現在使用できる楽曲は約2万8千曲だ。設立当初は少なかった洋楽の管理楽曲も約1900曲までになっている」
――この10年間で認知度は高まったと感じるか。
「設立当初は全く認知されずブライダル業者など1件1件回って啓発活動をしていたが、現在は新郎・新婦も含めて著作権に対しての意識が高まっていると感じている。これはSNS(交流サイト)、音楽配信などが一般的になっていることも関係しているようだ。新郎・新婦などからの問い合わせは多い時で1日20~30件あり、楽曲のリクエストは1週間で200~300曲寄せられている」
――今後の目標は。
「管理楽曲はもともとCD音源しか対象になっていなかったが、21年から配信音源にも対応できるようになった。サブスクリプションは対象外だが1曲ごとに購入できる配信音源は使用できるので利便性は向上している」
「また、この10年活動を続ける中で、クラシック音楽などの著作権消滅曲(著作権の手続き不要)の取り扱いも開始された。さらに当日余興等の生演奏を記録撮影する場合(著作隣接権の手続き不要)の複製の手続きもできるようになっている」
――ブライダル業界の現状は。
「コロナ前の19年に比べるとほぼ戻ったか、もしくはそれ以上の感覚だ。ただ、結婚式の少人数化や演出方法の変更といったコロナによる影響で生じた変化は続いているのではないか」
――最後に業界にメッセージを。
「著作権は面倒で、できれば触れたくないという人も多いと思うが、ISUMのシステムは著作権管理事業者やレコード会社などの、著作権、著作隣接権の権利者を通さずにオンラインで簡単に利用手続きを終えられる。事業者は手間をかけずに手続きができるため、省力化できた時間をサービスに尽力していただけたらと思っている」
「現在、需要の高いデータ納品についても利用しやすい形で導入できるよう検討を進めているところだ」
岸原孝昌氏(きしはら・たかまさ) IT関連の業界団体運営から音楽著作権処理の業務に携わる。1999年4月モバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)事務局長(現・専務理事)。2019年11月音楽特定利用促進機構(ISUM)理事に就任。21年4月経済産業省委託「デジタルプラットフォーム取引相談窓口<アプリストア利用事業者向け>(DPCD)」責任者に就任。政府関係機関へのモバイルインターネット、著作権に関する政策提案も行っている。福岡県出身。58歳 【聞き手・西巻憲司】