
前号で、ヒートポンプがエコロジー、エコノミーにつながる理由を書いた。本号では、地中熱がさらにエコにつながることなどを説明する。
日本で普及している住宅用のエアコンは、外気を熱源にしており、空気熱源ヒートポンプエアコンディショナと呼ばれる。気候によって異なるが、例えば、冷房をする際は、図の通り外気温度35度のところに熱を捨てる。冬季は外気温度・マイナス2度の熱をもらい暖房をする。
前々号に書いたように、10メートル以深の地中温度は年間を通して変動しにくい。東京であれば暖房は地中温度15度前後のところから熱をもらうし、冷房だと熱を捨てる。外気温度に比べ、地中温度は室内温度との差が少ない。室温とヒートポンプの熱源温度との差が小さい方がヒートポンプの効率が高くなることから、地中熱ヒートポンプは住宅用のエアコンで用いられている空気熱源のヒートポンプより数割、効率が高くなる。
地中熱ヒートポンプによる暖房や加温は、空気熱源に比べて別のメリットもある。空気熱源ヒートポンプによる暖房や加温では屋外機に霜が付着する。霜が付いたまま暖房・加温し続けると効率が低下するために、除霜(デフロスト)運転をして霜を解かす。
除霜運転を簡単に説明すると、暖房時に、こっそり冷房運転に切り替えて室内の暖気を使い屋外機の霜を解かしているのだ。除霜運転の頻度と長さは、機種や気象条件、運転状態などによって変わるが1時間に数回行われることが多い。除霜運転時は、見た目にはエアコンが停止したような状態になる。
住宅用のエアコンでもヒートポンプの回路を2系統組み込み、除霜運転による停止を感じさせないようにしている機種も登場している。
いずれにせよ、空気熱源ヒートポンプの除霜運転は効率の低下を避けることが難しい。地中熱ヒートポンプは、土に埋めた地中熱交換器に霜が付くことがなく、除霜運転は起きず、効率低下も運転停止もない。
また、地中熱ヒートポンプは地中に樹脂製の地中熱交換器を埋設することが多いことから、塩害による腐蝕(ふしょく)の影響を受けにくい。前々号で触れた和倉温泉のエアコンの屋外機の塩害対策は、地中熱ヒートポンプエアコンで解消できる。
温泉は泉質や含まれる物資によって、金属がさびたり浸食したりすることがある。旧泉質名だと、食塩泉や硫黄泉、硫化水素泉などが該当する。pHの値が低い酸性泉も金属をむしばみやすい。温泉由来の腐蝕により、エアコン屋外機が1年も持たないこともあると聞く。腐蝕しやすい泉質を利用している温泉施設も、地中熱ヒートポンプエアコンとの相性がバツグンだ。
空気熱源エアコンの屋外機に相当する機器は、屋内に設置できることから、建物の外観を損なうこともない。
宿泊施設で夏季に冷房をしていると周辺から屋外機の騒音のクレームを受けることがある。地中熱ヒートポンプは屋内に設置できることから、騒音を軽減できるメリットも大きい。
(国際観光施設協会エコ・小委員会委員、東北文化学園大学客員教授、元・福島大学特任教授 赤井仁志)
(観光経済新聞2025年2月24日号掲載コラム)