
地中熱ヒートポンプシステムは、ランニングコストが安くなるだけでなく、暖房時のヒートポンプの除霜(デフロスト)運転による一時停止、塩害、錆(さび)の発生や浸蝕しやすい温泉による腐蝕防止のほか、エアコン屋外機による建物外観の景観頽廃(たいはい)や周辺の騒音対策にも有効であることを書いてきた。
地中熱利用の形態には、ヒートポンプを用いるシステムだけではない。ヒートポンプを用いず地中の熱だけで融雪するシステムや、地中に空気を通して建物に取り込む外気(給気)を冷やしたり温めたりする利用方法もある。融雪システムは、後の号で触れたい。
地中熱ヒートポンプシステムの熱利用する方法は、大きく二つに分類される。代表的なものは、図のように地中100メートル程度まで地中熱交換器という樹脂製配管を埋めて熱を放ったり奪ったりするもので、クローズドループ方式と呼ばれる。これとは別に、オープンループ方式と呼んだり、地下水熱利用ヒートポンプと言ったりするシステムもあり、地下水をくみ上げ、井水の熱をヒートポンプの熱源にする方式である。
後者のオープンループ方式は、導入コストが安めである。しかし、地盤沈下を避けるために、地下水のくみ上げ規制を法律や条例等で禁止している地域もある。
オープンループ方式は地下水の水質により、ヒートポンプ本体の熱交換器の腐蝕や、地下水に含まれる成分による詰まりなどが生じることもある。
例えば地下水に鉄分を多く含むと、地上にくみ上げた際に酸化して熱交換器や配管等に悪影響を与えることがある。また、鉄バクテリアが発生してトラブルの原因にもなる場合もある。地下水をくみ上げ続けると水質が変化することもあるので、経過観測が必要だ。
一方、クローズドループは密閉した配管内に注入した水や不凍液を含んだ水を何年間も循環させることから、地盤沈下やヒートポンプの熱交換器等の腐蝕の心配はない。
肝心なエコの面でも、地中から放熱や採熱に必要なポンプの搬送動力(消費電力)の面で、クローズドループ方式はオープンループ方式より大きく省エネルギー側に働く。
クローズドループ方式は、地中熱交換器側の配管やバルブ類等の摩擦抵抗分のみが循環ポンプの消費電力になる。一方、オープンループ方式は、地下水を地下水位からヒートポンプまでの高低差分をくみ上げるのに必要な揚程と呼ばれる揚水ポンプの搬送動力も必要になる。地下水位が低いと、ポンプが消費する電力量が大きい。
地域性や地下水質の条件などにより、どちらのシステムを採るか判断する必要がある。
(国際観光施設協会エコ・小委員会委員、東北文化学園大学客員教授、元・福島大学特任教授 赤井仁志)
(観光経済新聞2025年3月10日掲載コラム)