実用的なNFTが続々登場 リフトや宿泊、航空で活用
――NFTとは何か。
「NFT(Non―Fungible Token)とはデジタルアイテムの所有権を証明する特別な証明書のようなものだ。日本語では『非代替性トークン』と呼ぶ。似た性質を持つ仮想通貨は代替性トークンと呼ばれている。非代替性とは、替えがきかない唯一のもの、つまり、アート作品や特定日の宿泊の権利などがこれにあたる。一方、お金や市販品には代替性がある。トークンとは、ブロックチェーン技術を活用して発行した暗号資産のこと。ブロックチェーン技術とは、データの改ざんや不正利用が極めて困難で、安全にデータを管理できる技術のことだ。NFTは世界共通の技術・フォーマットで成立しており、国際間取引が可能だ。つまり観光業界での応用の可能性が非常に高い」
――NFTと聞くとデジタル上の高額アート作品を連想してしまう。
「NFTは当初、投機的に高騰することが多かった。2021年にNFTに注目が集まり、市場が急拡大。21年1月に8億円だった取引額は、2月に100億円を突破した。その後、22年4月をピークに6月には10分の1まで急落した。23年は下落傾向が続いているものの、取引額が急拡大しているNFTも存在する。NFTはデジタル画像をNFT化したものから、実用的なNFTへとシフトしている。工夫されたUX(ユーザーエクスペリエンス=製品、サービスを使用する際の印象や体験)を備えた実用的なNFTでは、即完売するケースも珍しくない」
――実用的なNFTとは。
「デジタルアート作品のNFTは趣味や投機の対象で非実用的ととらえることができるかもしれない。実用的なNFTとは実際に利活用メリットが得られるものを指す」
――NFTは観光業界でどのように活用できるか。
「観光業界におけるNFTの導入目的は、地域と観光客の間に新たなつながりを提供することと定義できるのではないだろうか。例えば観光NFTとしては、(1)会員券NFT(2)サービス前売りNFT(3)高級特産品(伝統工芸品、名産品)の前売り引き換えNFT(4)地域コミュニティ活性化策としての記念配布NFT(5)地域スタンプNFTラリーによる周遊コンテンツ―などの適用が考えられる」
――NFTが観光業界で既に活用されている具体例を教えてほしい。
「ニセコではスキーリフトの早期利用権をNFTで外国人向けに販売している。他のスキーヤーよりも先にリフトに乗れて、純白のゲレンデにシュプールを描くことができる。NFTは全世界共通企画なので、外国人への販売がしやすい」
「NOT A HOTEL(=ノット・ア・ホテル、東京都渋谷区)もNFTを使っている。メンバーシップ会員になると、毎年決められた日に全国のNOT A HOTELに宿泊することができる。ユニークなのは宿泊する場所がランダムで選ばれること。メンバーシップNFTは、年間1泊が185万円、同2泊が355万円、同3泊が580万円の3種類。有効期間は47年間のため、1泊あたりの価格は4万円前後となる。メンバーシップはNFTで発行されているので、NFTマーケットで売買したり、人にプレゼント(譲渡)したりすることができる。今年は都合が悪くて泊まりに行けないという場合でも、今年のデジタル鍵だけを売却することができる。例えば応用例として、既存の宿泊施設が閑散期の客室をNFT化して販売するという手法も考えられるのではないだろうか」
「アルゼンチンのLCC(格安航空会社)のフライボンダイでは、航空チケットをNFT化している。これにより旅行者は、旅行日程が変わった場合に購入済みの航空券をキャンセルせずに第三者に販売することができるようになった。キャンセル処理は旅行者にとっても航空会社にとっても手間とコストがかかるが、この問題に解説策の一つを示した。しかも売買マーケット(ITプラットフォーム)で取引された航空券の金額の2%ずつが手数料としてプラットフォーマーと航空会社に入る仕組みだ」
なみき・ともゆき 新日本有限責任監査法人、EYアドバイザリ―・アンド・コンサルティング、KPMGコンサルティングを経て現職。専門はブロックチェーン技術のコンサルティング業務。セキュリティトークンの動向調査、ブロックチェーンを用いた実証実験のプロジェクトマネジメントのエキスパート。一般社団法人日本セキュリティトークン協会代表理事、クニエ(NTTデータ100%子会社)シニアマネージャー。 【聞き手・kankokeizai.com編集長 江口英一】