小規模宿泊施設 事業承継の環境整備必用
体験ツアー造成 自治体の“縦割り打破”を
政府の観光戦略実行推進会議の会合が11月16日、コロナ禍からの観光の回復に向けたコンテンツ造成などをテーマに首相官邸で開かれた。事業承継を契機とした小規模宿泊施設の活性化、地域資源を生かした体験ツアーの創出などについて有識者や事業者に意見を聞いた。会合には菅義偉首相が出席し、国内外の旅行者を魅了するコンテンツづくり、宿泊施設の改修などの重要性に触れ、地域や宿泊業の取り組みに対する支援を強化する考えを示した。
■小規模宿泊施設
小規模宿泊施設の活性化ついて、旅館の再生などを手掛ける高崎経済大学地域政策学部教授の井門隆夫氏が提言した。廃業を検討している旅館にかかわる事業承継の促進について、「買い手候補に買収後の新たな事業計画などを示しつつ、金融機関の調整など取引を支援する態勢を整備し、対応する人材を補強・育成することが必要」と指摘した。
事業承継を契機とした高付加価値化、収益力向上の成功事例では、後継者不在の旅館から株式譲渡で経営を受け継ぎ、「高級・素泊まり化」によって営業利益率をアップさせた宿泊事業者の事例を紹介。また、家族経営の温泉旅館が世代交代をきっかけに施設改装や食事の見直しで単価アップに成功した事例を説明した。
宿泊施設への投資に関しては、「短期の利益目的以外の投資を呼び込むことで、国立公園や里山景観のポテンシャルを最大限に生かしつつ、地域の活力を生かした宿泊施設を整備することが可能」と提言した。
■体験ツアー
三重県鳥羽市の旅館海月の女将で、体験ツアーなどを手掛けるオズ(海島遊民くらぶ)代表取締役の江﨑貴久氏は、「観光と漁業の共存共栄」と題して発表。経営が行き詰まった実家の旅館を承継して再建する一方で、地域全体の魅力づくりの必要性から、漁業などと連携した体験ツアー、エコツアーの造成、販売などで成果を上げた。
漁業者と連携して実施する各種体験ツアーなどをはじめ海島遊民くらぶの今年の利用者は、新型コロナ流行下でも6600人となり、すでに過去最高を更新。体験型の事業は地域全体にも広まり、利用者が伸びている。
しかし、体験ツアーの造成までには、観光業と漁業などの業種間の信頼関係づくりに苦労したという。他産業との連携について「自治体にパイプ役になってほしいが、観光部局の力が弱く、まとめきれない。自治体レベルでの“縦割り打破”が必要」。
コロナ禍に対する観光支援策については「世代交代に伴う事業モデルのチェンジ、施設のリニューアルについて、やる気のある宿泊施設を支援してほしい」「Go Toキャンペーンで地域の観光地は活気を取り戻した。終了後の反動が少なくなるよう継続してほしい」と要望した。
■支援の強化へ
観光庁は、コロナ禍に対する観光施策で、Go Toトラベル事業による国内旅行需要の喚起だけでなく、宿泊施設のハード・ソフトの改善、「新しい生活様式」に対応した魅力ある観光コンテンツの造成などを支援している。
宿泊施設に対しては、客室改修やWi―Fi環境整備などハード面に使えるバリアフリー化促進事業、基本的ストレスフリー環境整備事業でこれまでに494件を支援。宿泊施設に専門家を派遣して感染症対策や他業種との連携などを推進するアドバイザー派遣事業では34件を支援する。
新しい生活様式の実践を徹底しながら、地域の自然、歴史、文化、食、イベントなどの観光資源を磨き上げる「誘客多角化等のための滞在コンテンツ造成」実証事業では、全国各地で556件の取り組みを採択した。
議論を踏まえて菅首相は「内外の観光客に楽しんでもらえるコンテンツづくりは、観光を復活させていく上で極めて重要だ。また、ホテル・旅館についても、今後の変化を見据えた施設内改修、複数のホテル・旅館との提携、さらに街全体の外観改善や案内板整備などを含めて、今のうち、できることをしっかり支援していく必要がある」と述べた。
16日の観光戦略実行推進会議(画像=首相官邸ホームページから)