観光庁主催の観光地域づくりシンポジウム「日本の観光、やります」が11月28日、東京都品川区のホールで開かれた。有識者がインバウンドや国内観光の振興に向けた地域づくりをテーマに意見交換。日本旅行業協会(JATA)副会長の田川博己氏(JTB社長)が、外国人旅行者の受け入れ環境に関し「ハードの優しさ」と表現してインフラ整備の必要性を訴えたほか、他の有識者も地域文化に根差した魅力づくりなどについて提言した。
パネルディスカッションには田川氏をはじめ、三重県観光審議会委員の江崎貴久氏(旅館海月女将)、熊本県阿蘇市長の佐藤義興氏、東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻教授の家田仁氏、フリーアナウンサーの松本志のぶ氏、観光庁長官の久保成人氏が登壇。進行役は読売新聞特別編集委員の橋本五郎氏。
JATA副会長の田川氏は、外国人の受け入れ環境の課題をハードの優しさとして問題提起。「海外と比べても日本の地方都市は観光資源に恵まれている。心のおもてなしも十分だが、ハードの優しさという面では解決すべき問題が多い」と指摘し、Wi—Fiによるインターネットの接続環境、決済や現金引き出しといったクレジットカードの利用環境などの整備を急ぐように訴えた。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックを契機とした地域づくりでも、田川氏は「地方をいかに世界に知らしめ、地方にいかに旅行者を送り出すかが大きな仕事であると同時に、都市のバリアフリー化が課題。東京が取り組めば、世界一流の都市になる。政令市がそれに続き、地方にも広がる」と述べた。
オリンピックに関しては、三重県鳥羽市で旅館を経営し、エコツーリズムのガイドなども務める江崎氏が「東京との格差が広がると心配する人が多いが、地方が自ら動かないと何も始まらない」と指摘。外国人受け入れについては「観光事業者の間には、インバウンドは『料金が安い』『受け入れに自信がない』といった声も依然ある。現場にやる気を起こしてもらうには、モニターツアーなどで外国人に慣れてもらう。そうした積み重ねが必要」と述べた。
地域資源の活用、地域の情報発信も話題に上った。阿蘇市長の佐藤氏は「九州新幹線の開業などの機会に発信された阿蘇の魅力は美しい風景ばかり。その自然の過酷さの中で生き、知恵や技を生み、暮らしてきた人々に光を当てることが足りなかった。そこで市の振興と観光のブランドとして『然』という言葉を選んだ。風景に加え、人を主役にした文化を発信したい」と語った。
地域の魅力づくりに関しては、田川氏が「日本の観光地はこの40、50年で金太郎飴型になってしまった。地域ごとにオリジナルのシナリオをつくる必要がある。住民が魅力を再発見し、生活や文化を物語にし、磨きをかける。それを旅行会社と連係プレーで国内外に発信し集客につなげる。観光立国の理念は『住んでよし、訪れてよし』と言われるが、『住んでよし』が先であることに意味がある。住民が良いと思わない地域に旅行者は来ない」と語った。
地域づくりで意見を述べる有識者