観光立国20年の歩みを総括 東大公共政策大学院がセミナー


本保芳明氏

「住んでよし」置き去りに

 「住んでよし、訪れてよしの国づくり」を基本理念とする「観光立国」の推進を政府が打ちだした2003年以降、約20年の観光の歩みを総括するセミナーが11日、東京都内で開かれた。主催したのは、東京大学公共政策大学院交通・観光政策研究ユニット(TTPU)。有識者によるパネルディスカッションでは、インバウンドを短期間で増加させ、年間の訪日外国人旅行者数3千万人、その消費額4・8兆円などの経済効果によって観光の社会的地位を高めたとする一方で、地域の豊かさを支える「住んでよし」の実現、持続可能な観光の推進については課題が指摘された。

 セミナーは、03年に当時の小泉純一郎首相が施政方針演説で観光立国政策を掲げ、ビジット・ジャパン事業がスタートして以降の観光の取り組みについて検証し、コロナ後の観光振興に生かそうと企画された。パネルディスカッションには5人の有識者が登壇。コーディネーターは、東京女子大学教授の矢ケ崎紀子氏が務めた。

矢ケ崎紀子氏

 

成果と課題

 観光の総括として、観光庁の初代長官で国連世界観光機関(UNWTO)駐日事務所代表の本保芳明氏は「観光はこの20年で、社会的な地位を高め、市民権を得ることができた」との認識を示した。その要因には、観光政策や観光産業に対する世界の関心の高まりという潮流に日本が乗れたことのほか、政治が観光政策を主導したことを挙げ、「安倍・菅政権がなければ、ここまで観光は進まなかった」として政治の役割の大きさを指摘した。

本保芳明氏

 

 日本の観光の成長について、フランス観光開発機構在日代表のフレデリック・マゼンク氏は「フランスで観光が産業として考えられるようになったのは19世紀後半。国際観光に本格的に取り組んだのが第2次世界大戦後だ。観光は経済、雇用に重要な位置を占めるようになり、GDPに占める割合も7~8%になった。観光大国といわれるフランスは200年かかったが、日本が20年でここまできたことは素晴らしい」と評価した。

 一方で本保氏は、この20年間の観光を評価すると、10点満点で4点ぐらいと厳しい点を付けた。「経済面では大きな成果があり、地域経済にも裨益(ひえき)した。しかし、地域や人々を豊かにするとか、地域の伝統芸能が守られるとか、産業界が変革を繰り返して成長するとか、そうした成果が足りなった。『住んでよし』の部分が置き去りにされたところがあった」と指摘した。

フレデリック・マゼンク氏

地域と観光

 「私たちの町は、観光立国の波に乗れたといえるような状態ではなかった」と語ったのは、新潟県津南町長の桑原悠氏。「人口減少で地域経済の縮小が避けられず、交流人口の増加に向けて観光に取り組む必要があることは分かっていたが、どうすればいいのかというのが当初の状況だった」と振り返った。

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