今年9月の訪日外国人旅行者数(推計値)は、前年同月比6.9%減の64万2千人で2カ月連続の減少となった。金融市場の混乱など世界的な景気の後退が、訪日旅行市場に影響を及ぼし始めている。訪日旅行市場は中長期的には成長路線にあるが、ビジット・ジャパン・キャンペーン(VJC)は2010年の1千万人の達成を目前に難しい局面を迎えた。市場の動向を注視した誘客策の展開が求められる。
韓国が20%減にウォン安が影響
9月の訪日旅行者数は、日本政府観光局(JNTO)が10月23日に発表した。前月の8月が前年同月比2.0%減と前年割れを記録し、アジアの旅行動向を左右する旧正月の該当月の変動要因を除くと、SARS(重症急性呼吸器症候群)が流行した2003年7月以来、5年ぶりの減少となっていた。
9月を市場別にみると、VJCの重点12市場のうち6市場が前年同月比でマイナス。訪日旅行者全体の約3割を占める韓国が同20.8%減の16万人と大きく落ち込んだ。続いてシェアの高い台湾も同13.3%減の10万2千人。このほか米国が同11.3%減の5万8千人、英国が同12.0%減の1万7千人と2ケタの減少。いずれも経済情勢の悪化が主な要因と分析されている。
特に韓国からの訪日客は7月以降、3カ月連続で減少。20%を超える減少幅は、アジア通貨危機が影響した1998年10月以来、10年ぶり。急激なウォン安がひびき、韓国の人気歌手を起用したVJCの宣伝効果も下げ幅の縮小にとどまった。
JNTOは、「韓国、台湾などでは、日本に限らず海外旅行への意欲が全般的に低下し、出国数自体が落ちている」と指摘したほか、「韓国では、ウォン安の影響で低廉ツアーの一部には収益を確保できず、旅行会社が催行を取り消す状況も見られた」と報告した。
一方、重点市場の半数は前年同月を上回っている。香港は同37.3%増の3万9千人で、8月に続いて30%以上の伸び。オーストラリアは同8.3%増の2万4千人で、9月としては過去最高を記録した。香港は、チャーター便を含めた航空便の地方空港への就航効果が大きい。香港エクスプレス航空による香港〜那覇間の定期便就航などで沖縄旅行が好調だ。
訪日意欲は底堅いVJCで需要喚起
1〜9月累計でみれば、訪日外国人旅行者数は前年同期比5.6%増の654万6千人となり、前年実績を上回っている。ただ、9月の減少要因は一時的なものとは言えず、金融市場の混乱などが収束するまでの一定期間、訪日市場への影響は続くとみられる。経済情勢に起因する訪日市場の低迷としては、アジア通貨危機に伴って1998年2〜7月、同年9〜11月に前年割れが続いたことがある。
JNTO企画部調査研究グループの森川直樹氏は「経済情勢が短期間のうちに好転するとは期待しにくいが、訪日客が増加基調にあることは間違いなく、中長期的に考えれば、各市場の訪日旅行への意欲も引き続き強い。成長路線は変わらない。市場の動向に注視していく必要がある」と指摘した。
観光庁では、訪日旅行者数の減少など市場の変化に対して、VJCでの対応などを指示している。10月15日に開かれたJNTO海外宣伝事務所長会議では、市場分析の報告や需要喚起策の実施を求めた。
「単年度予算の中で制約はあるが、短期的には、市場ごとにターゲット層や旅行テーマを再点検し、需要を喚起したい。また、来年度以降のVJCの事業計画にも市場の動向を反映させていく必要がある。2010年の1千万人の達成に向けて、継続的な取り組みを着実に進めることが重要だ」(観光庁国際交流推進課・金指和彦課長補佐)。
短期的な効果を狙った宣伝として、JNTO海外プロモーション部では、韓国、台湾、中国、香港、英国での展開を予定。例えば、韓国では、比較的旅行費用を捻出しやすい20〜30代の独身女性をターゲットに、旅行会社とタイアップして訪日商品の宣伝を強化する。また、アジアの旧正月に合わせた訪日キャンペーン「YOKOSOジャパンウイークス」(09年1月20日〜2月28日)に連動した宣伝も強化していく。