双方向交流の推進を
今夏の人事で就任した上原淳国土交通審議官が、国土交通省交通運輸記者会の共同インタビューに応じた。国土交通審議官は事務系官僚としては事務次官に次ぐポストで、3人の国土交通審議官のうち、上原氏は国際関係分野を担当している。
――就任の抱負は。
国際関係は非常に複雑になってきている部分があるが、現政権のさまざまな外交上の課題にどのように国土交通行政が対応していけるかをしっかり考えながら最善を尽くしていきたい。
7月11日の就任以来、すでに2回、岸田総理の海外訪問に随行している。最初は中東歴訪ということで、サウジアラビア、UAE、カタールに行った。各国は産油国などだが、新たな産業を育成したいようで、日本の国土交通関係分野に対する期待が大きい。その中の大きな要素が観光産業だ。日本人観光客に大きく期待しており、日本との間の航空ネットワークの充実に期待感が強く表れていた。
次がインドネシアのASEAN首脳会議、それからインドのG20サミットに随行した。特にASEANについては総理からいろいろ表明があったが、やはり日本の経済協力の中でも交通分野における協力に強い期待があるので、これにきちんと対応したい。
交通インフラだけでなく、さまざまなニーズが出てきていて、そのうちの一つが海洋協力。各国とも海洋分野でさまざまな課題がある中、例えば、海上保安庁の技術協力とか、国際法上の情報共有、国際法上の扱いについての考え方を共有するとか、そういったことに強い要望がある。それからもう一つは物流。国ごとだけでなく、地域全体の物流をどう整備するか。インフラだけでなく、ソフトの分野でもコールドチェーン(低温物流)をどういう形で発展させていくか、そういうことにも大変強い関心が示されている。
――喫緊の政策課題は。
まず一つはインフラ輸出の面。すでにプロジェクトが始まっている鉄道分野など、さまざまなプロジェクトがあるので、これをきちんと関連する法人企業と連携して進めていく。また、各国の希望に対応して経済協力をどういうふうに進めていくかということがある。
さらに、日本のこれまでの知見を最大限に生かしながら、脱炭素などの環境問題、あるいは安全に関する問題などに対して、日本としてしっかり国際機関の中で役割を果たしていく。これも差し迫った喫緊の課題になっている
これらを通じて、日本の関連する産業が国際分野でしっかりと役割を果たせるようにしたい。
――観光分野の双方向交流の拡大については。
新たな観光立国推進基本計画には、ツーウェイツーリズムの重要性が盛り込まれている。先ほど申し上げたように、海外に行って話を聞いてみると、日本人観光客に対する強い期待が各国から寄せられる。
もちろん日本の良さを理解していただくインバウンドは非常に重要だが、アウトバウンドの日本人観光客が欲しいという国々がある。観光庁は、日本人の国際感覚の向上など、そうした観点からアウトバウンドを進めていくと思うが、ぜひインバウンドと併せてアウトバウンドの取り組みも進めてほしい。
うえはら・あつし氏 1987年運輸省(現・国土交通省)入省。2014年観光庁総務課長、19年海上保安庁次長、20年鉄道局長。23年7月から現職。東大法卒。兵庫県出身。59歳。
【聞き手・観光経済新聞副編集長 向野悟】