農林水産省は参加費無料の「農泊シンポジウム」を全国9カ所で開催する。第1回は関東農政局の主催による「関東ブロック・農泊シンポジウム~農泊が照らす新しい農山漁村の滞在型観光~」を7月21日、東京・品川区総合区民会館きゅりあんで開いた。
農水省関東農政局の浅川京子局長は冒頭の主催者あいさつで、「16年3月に公表された『明日の日本を支える観光ビジョン』には農泊の推進が明記された。農泊は『観光立国推進基本計画』や『未来投資戦略2017』など政府の計画にも位置付けられ、農山漁村の振興とそこに住む方々の所得向上のため、最重要施作施策の1つとして推進されている」と述べ、農泊推進の背景を説明。その上で「これらの計画・戦略の中では『農泊をビジネスとして実施できる体制をもった地域を500地域創出する』とされており、関東農政局としても全国500地域のうち局管内で100地域の創出を目指している」と語り、シンポジウム開催の意義を強調した。
関東農政局の星川泰輝地方参事官は「農泊の推進について」で講演。「農山漁村での体験、宿泊は都市住民や外国人にとっては非日常であり、また外国人が訪れてくることは田舎の人にとっても非日常だろう。農泊の推進は、地域の農家所得の向上や若者の居住など地域全体の活性化につながる」と述べた。
また農村振興局農村環境課の田中建一鳥獣対策室長は、「捕獲鳥獣のジビエを巡る最近の状況」を説明。「シカは年間59万頭、イノシシは年間52万頭が捕獲されているが、ジビエとしての利用率は1割程度。農泊・観光分野で活用すれば、農山村地域の所得向上が期待できる」と話した。
さらに、民泊予約サイト「STAY JAPAN」を運営する百戦錬磨の上山康博社長が「民泊・農泊を活用した地域の活性化について」と題した基調講演で登壇。「『農泊』は教育旅行という最も宿泊単価の安い分野から始まったが、教育旅行団体と同じ単価設定にする必要は全くない。富裕層インバウンド客は、お金を払う気満々でやってくる」と述べ、適正販売価格の設定をアドバイスした。
パネルディスカッション「農泊のビジネス化にむけて」では、農協観光執行役員営業部長の齋藤充利氏をコーディネーターに、百戦錬磨社長の上山氏、グリーン・ツーリズムによる地域活性化を行っている大田原ツ―リズムの社長の藤井大介氏、古民家など歴史的建築物を活用した地域再生事業を展開するノオトの代表理事の金野幸雄氏、地域活性化のコンサルティング経験が豊富なJTB総合研究所主席研究員の岡本淳芳氏、関東農政局次長の米田博次氏の5氏がパネリストで登壇。それぞれの経験と立場から次のように発言した。
「農泊は、鎖国状態にある地域を開国させる力を秘めている。開国で新たな化学反応が起こるのではないか」(上山)。
「粗利や手数料を再定義して、地域のコーディネーターがある程度儲かる仕組みにしないと永続的な発展は望めない。また受け入れ過ぎないように客数をコントロールすることも必要だ」(藤井)。
「地域の一番の宝は人だ。各地域に歴史文化、文化財、祭りなどの宝が眠っているが、それらを意識せずに普通に生活していつ人たちの中に親戚のようにもぐり込ませてもらうことに農泊の価値がある」(金野)。
「シビックプライドが地域を動かす原動力となる。地域の人たちが愛しているものは売れる」(岡本)。
「『農泊』は地域づくりにつながる。農水省では、外部の人でも、地域と連携するなら農泊に取り組めように支援をしていく」(米田)。
今後の開催スケジュールは、8月9日・沖縄ブロック「沖縄農泊シンポジウム~農泊ビジネスへの新しい視点~」、8月29日・中国四国ブロック「農泊推進フォーラムin真庭~持続性ある『農泊』を展開していくために」、8月31日・北海道ブロック「北海道農泊シンポジウム~地域資源を活かしたインバウンドの受け入れ方~」、9月5日・九州ブロック「九州農泊シンポジウム~魅力再発見、地域資源はこう活用せよ~」、9月12日・東北ブロック「東北農泊シンポジウム~生きがいから農泊ビジネスへのステップアップ~」、9月13日・北陸ブロック「北陸農泊シンポジウム~農泊の目指す受入地域のあり方~」、9月15日・近畿ブロック「近畿農泊シンポジウム~農泊で地域の活性化を、泊って感じる豊かな瞬間~」。
同シンポジウムには、グリーン・ツーリズム等の受入地域団体・企業、都道府県・市町村、農林漁業関連団体・企業、観光関連団体・企業をはじめ、観光、地域おこし、農業等に興味・関心のある人なら誰でも参加できる。運営事務局は全国農協観光協会と農協観光。参加申し込みはウェブサイトで受け付けている。(https://ntour.jp/symposium/)