
坂本社長
日本旅館国際女将会(長坂正惠会長=下呂観光ホテルしょうげつ)は3月25日、東京・渋谷の小料理「よし田」で3月定例会を開催した。茨城県の「月の井酒造店」代表取締役社長・坂本敬子氏が「経験から学んだ継承のとき」と題して講演。夫の急逝後、3人の子育てをしながら事業を継承し、オーガニック日本酒造りに挑戦してきた経験を語った。小料理「よし田」は主に台湾・香港の方に向けた日本の観光情報サイト「ラーチーゴー!日本」を運営するジーリーメディアグループの吉田皓一社長が今年1月6日に開業した店舗。当日は、台湾から吉田氏も駆けつけた。
突然の悲劇から始まった酒蔵経営
坂本さんは講演で、「主人が人間ドックで早ければ半年、平均10ヶ月で食道がんですという宣告を受けました」と当時を振り返った。夫の病気発覚時、長男は中学生、下の子は小学1年生と3年生だった。
「私は子どもを守りたい、パパとの思い出を作らなきゃ、病気もなんとか治る方法を探さなきゃと思いました。でも主人が言ったのは『従業員どうしよう、会社どうしよう』だったんです」
夫の死後、坂本さんは月の井酒造店の社長に就任。「長男に『お母さん10年頑張ってよ。僕はやっぱりこの家で生まれて育って、おじいちゃんとかみんなに、お前は後取りだ、後取りだって育てられて、将来作り酒屋をやることしか僕は考えたことがないよ』と言われ、頑張ろうと思いました」
メディアとの出会いが転機に
坂本さんの経験は、新聞記事をきっかけに本になり、さらにテレビドラマ化された。「朝日新聞の方から記事にしたいのでお話を伺いたいですと言って、築地の朝日新聞から茨城県の大洗までわざわざ取材に来てくれたんですね」と坂本さん。
新聞記事掲載後のことは「東京駅の近くに置きますから、何ケースを取ってくださいみたいな。そんな注目が来て、それと同時にたくさんの出版社から電話をいただき、一番熱心だった文芸春秋さんから出版していただきました」と振り返った。
本の出版後はテレビ局からもオファーがあり、「NHK以外から全部電話がありました。この本の話をドラマにしたいんですけど、ご協力いただけますか」と声がかかった。舘ひろし、安田成美の主演ドラマとして放送された。
オーガニック日本酒への挑戦
坂本さんは「2020年に思い切って振り切って酵母無添加のきもと作りというもので、オーガニック和の月(有機米純米酒)を作りました」と語った。
「究極のオーガニックのお酒というものは、ある意味伝統的な酒造りなので、現代的なフルーティーでちょっと甘くて、さらっと飲みやすくてみたいな。そういうお酒ではなくて、その時に生まれた全てが自然の力で生まれたお酒です」
坂本さんは最後に、「〝個性〟というのは、それでいいことかなと思っています。たくさん売れるほどの量の日本酒は作れない小さい酒蔵なので、私たちが作ったお酒の良さを精一杯説明させていただいて、そして認めてくださって飲んでくださる方、そういう方が少しでも増えればいいなと思って日々仕事をしています」と締めくくった。
坂本社長
【kankokeizai.com編集長 江口英一】