新型インフルエンザの国内感染が最初に発生し、風評被害で観光客が減少、経済的な損失を受けている関西地区の自治体や観光事業者が、政府や観光業界に支援を訴えた。18日、東京・霞ヶ関の合同庁舎で観光庁が開いた「関西地区新型インフルエンザ風評被害支援緊急集会」に、「元気です、関西」観光キャンペーンを展開する関西の関係者約50人が出席。旅行需要喚起に向けたキャンペーン、宿泊業をはじめとする観光事業者の経営安定化などに支援、協力を要請した。
緊急集会は、観光庁が設置している「国内観光旅行の振興に関する連絡会議」を関西地区の支援にテーマを絞って特別開催したもの。金子一義国土交通・観光立国担当大臣、本保芳明観光庁長官が出席。連絡会議を構成する観光関係団体、旅行業、運輸業、関係省庁の担当者が集まった。
緊急集会では、観光キャンペーンの一行を代表し、京都府の山田啓二知事(関西広域機構関西国際観光推進センター副会長)が「風評被害による旅行者の減少は観光業界の死活問題となっている。関係業界への影響も捉えきれない。関西経済は消費が落ち込み、大変な損害を受けている」と窮状を訴えた。
山田知事は、政府や観光関係者に期待する取り組みとして、(1)観光事業者の売り上げ減少、資金繰り悪化などに対する支援策の強化(2)関西地区への誘客促進に対する支援、協力(3)風評被害の再発防止策──の3点を強調した。
宿泊業の経営安定化
風評被害によるキャンセルの発生状況などが報告された。京都府旅館生活衛生同業組合の調査結果(194軒回答)によると、3日現在、旅館・ホテルでの宿泊キャンセルは修学旅行生が約13万人、一般団体・個人が約3万人。食事のキャンセルを含めると、約18億円の損失という。「予約前の旅行中止などの損失を含めれば、倍近い損失となるはずだ」(同組合・山本忠彦理事長)。
国際観光旅館連盟近畿支部がまとめた宿泊キャンセル状況(5月25日現在、一部30日)によると、近畿6府県の一般旅行、修学旅行を合わせたキャンセル人数は約43万5千人に達し、損害額は約47億2千万円と試算している。
旅行者の減少で経営危機に直面する観光事業者への支援強化も要望された。特に宿泊業への融資制度に関し、山田京都府知事は「政府にはいち早く金融支援策を打ち出してもらったが、宿泊業は装置産業ですでに借入金が多く、もともと厳しい状態。融資制度の柔軟な運用をさらに検討してほしい」と要請した。
国観連近畿支部京都会の北原茂樹会長も「夏を目前に資金繰りが非常に厳しい。金融条件のいっそうの緩和を」と要望。政府の支援策に関して、信用保証協会から保証を受ける際の保証料の補てんや、日本政策金融公庫の運転資金貸付の融資期間を10年以上にすることなどを求めた。
誘客と風評被害防止
事業者の経営の安定化とともに、関西の関係者は、旅行者の客足を取り戻し、風評被害による損失を埋め合わせるための集客拡大への支援を関係機関に要請した。
兵庫県神戸市国際文化観光局の安岡正雄氏は「神戸の生活は普段通りだが、観光バスや修学旅行生の姿は戻っていない。新型インフルエンザの発生で延期となった神戸まつり(7月19日に開催)などで神戸、関西の元気を発信していくので協力をお願いしたい」。
大阪観光コンベンション協会の西迫登・プロモーション担当部長も「まだまだ風評被害のダメージから立ち直れていない。『水都大阪』(8月〜)といった大型イベントも控えている。大阪、関西への送客に協力を」と訴えた。
関西を挙げてのPRのほか、各地域では行政や観光団体、温泉地などが連携し、特典付きのキャンペーンなどを展開中。また、大型観光施設も新型インフルエンザ対策の集客、宿泊需要の創出に懸命。ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(大阪府)は、「6月の平日には予定していなかったナイトパレードを15日から毎日開催することにした」(ユー・エス・ジェイ東京営業所の北山昌彦所長)と報告した。
さらに、新型インフルエンザの感染が秋以降に拡大する可能性が指摘されていることから、今回のような風評被害を繰り返すことがないよう適切な対応を求める声も挙がった。
京都府の天橋立観光協会の宮崎劭会長は「11月には松葉ガニ漁が解禁となり、観光シーズンを迎える。この時期に再び同じような風評被害が起きれば、大変なことになる」と危ぐ。他の関係者も再び混乱を招かないように政府や関係機関に適切な情報提供を期待した。
関西への支援を求める京都府の山田知事