「伊東は、日本でも第4位という豊富な湯量があるんだよ」(大竹くん)
「改札を出ると、宿のお迎えの人がいて、温泉の駅という感じね」(小森さん)──若い男女のやりとりがはずむ。
ここは東京タワーの裏手にたたずむラジオ日本のスタジオ。「おとぼけツアーズ奮戦記 静岡ヘようこそ!」の番組収録が進んでいる。
都内の旅行会社「おとぼけツアーズ」の若手社員、大竹くんが、他支店から転勤してきたばかりの同期女性、小森さんと繰り広げる軽快な会話。静岡県の観光の魅力を紹介するコント仕立てのラジオドラマだ。
番組を提供しているのは、2年後の09年3月に富士山静岡空港の開港をひかえる静岡県。各都道府県はたいてい地元ラジオ局に広報番組を持っているが、「県外のリスナーに向けた番組提供は自治体では珍しい」(平石ひとみラジオ日本渉外担当部長)という。
ラジオ日本が首都圏向けに毎週金曜日の午前11時05分から放送している10分間番組。さらに北海道放送が毎週金曜日の午後5時から北海道全域に向けて放送。九州朝日放送も毎週土曜日の午前11時30分から主に北九州地区に向けて流している。
リスナーの40%は30代から50代の女性が占める。「消費のキャスティングボードを持つ主婦層にターゲットを絞っている」(中村秀実静岡県企画部広報局主査)という。
富士山静岡空港は新千歳空港や福岡空港などとの間に定期便の運航をめざしている。ただ、北海道や九州には名だたる温泉地が数多く存在。各地域の住民にとって、観光地としての静岡県の認知度はそれほど高くない。ラジオ番組を流すことで、2年後の開港までに静岡県の認知度を高めていこうという戦略だ。
とはいえ番組の最大の標的はもちろん首都圏マーケット。各回のテーマも「富士山山開き」(6月29日放送予定)、「東伊豆にいらっしゃい」(7月6日放送予定)、「修善寺温泉開湯1200年祭」(7月13日放送予定)、「夏だ!花火だ!伊東温泉」(7月20日放送予定)ときめ細かい。放送作家は伊東在住の東海林桂氏だ。
静岡県は05年4月から同番組の提供を開始。06年7月からは放送エリアを北海道と九州にも広げた。背景には、04年4月から6カ月間開かれた「浜名湖花博」でNHK、東京FM、ラジオ日本に広報番組を提供し、「誘客に結びついた」(中村主査)という成功体験がある。テレビでのCMや番組提供は高額で手が出ないが、ラジオなら予算的になんとかひねり出せるといった台所事情もあったようだ。
番組開始時に新入社員だった大竹くんも入社3年目。タレントの三宅裕司さんが座長を務める劇団スーパー・エキセントリック・シアターに所属する25歳の若手俳優で、芸名と同じ大竹浩一として出演している。今年4月から相手役で出演している小森郁子さんはオーディションで選ばれた。新人だが、落ち着いた口調とよく通る声で風格さえ感じさせる美人だ。
静岡県では、各放送局の電波が届かない地区でも番組を聞けるように配慮している。県のホームページ(http://www.pref.shizuoka.jp/kikaku/ki-110/radio/otoboke.html)から、過去に放送された番組4、5回分を聴くことができる。
番組収録中の“大竹くん”(右)と“小森さん”