路線維持の大都市を起点に誘客
日韓関係の悪化に伴い韓国からの訪日旅行が低迷している。日本政府観光局(JNTO)は、12、13日に東京都内で開催したインバウンド旅行振興フォーラムの中で韓国市場の動向を説明した。対韓輸出の規制見直しの発表以降、訪日旅行を控える動きが広がり、航空路線の運休・減便の発表も相次いだ。JNTOソウル事務所では、訪日旅行の魅力自体は変わらないとして、航空路線が維持される大都市を起点に、その周辺地域を含めた情報発信を重視し、事態の改善に期待する。
日韓の政治・外交問題はこれまで訪日旅行にはほとんど影響してこなかったが、7月の対韓輸出規制の見直しの発表に対する反応は違った。JNTOソウル事務所の山田敬也所長は「輸出規制は市民の生活に直結する身近な問題と位置付けられ、不買運動が広がった」と指摘した。
訪日旅行への影響は、7月当初はインセンティブ(報奨)旅行や団体ツアー、公務旅行などのキャンセルが中心だったが、徐々に個人旅行のキャンセル、旅行控えに広がった。訪日旅行のキャンセルの証拠画像をSNSに掲載する動きなども見られたという。
訪日旅行を取り扱う韓国の旅行会社への影響も大きい。8、9月の予約は大幅に減少し、例年、訪日旅行が増加する秋夕(チュソク)の連休(9月12~15日)の予約も低調だったという。
韓国航空会社の日本路線の運休・減便も相次いでいる。今年に入って、韓国経済の低迷やベトナムなど他の旅行先との競合激化で韓国からの訪日旅行は伸び悩んでおり、そこに日韓関係の悪化に伴う訪日旅行控えが起き、路線の維持が難しくなったとみられる。
日韓を結ぶ路線は、8月には週1279便あったが、9月以降、3割以上の減少が見込まれている。特に韓国LCC(格安航空会社)を中心に地方路線の運休・減便が多く、訪日旅行の地方分散を促進してきた環境が一変してしまった。
今後の見通しはどうか。JNTOソウル事務所によると、韓国の世論には、行き過ぎた日本批判を疑問視し、冷静な態度を求める意見も一部で見られるという。同事務所のSNSへの書き込みも当初はネガティブな内容が目立ったが、8月に入ってからは減少傾向だ。日本製品などに対する不買運動の一方で、周囲に知らせずに日本製品を購入したり、訪日旅行に行ったりする「シャイ・ジャパン」という動きも注目すべきと指摘した。
現在、消費者向けの訪日旅行キャンペーンを実施するのは難しい状況だが、韓国の航空会社とのタイアップなどは引き続き重視。状況を見極めながら、航空路線が維持されている大都市圏を起点に、周辺地域にも滞在してもらえるような情報発信に注力する。そのため大都市の新たな魅力、周辺地域の体験コンテンツなどを提案していく。
山田所長は「しばらく厳しい状態は続くが、シャイ・ジャパンに見られるように日本に旅行に行きたい気持ちはまだ十分にある。状況の改善につれて訪日するようになると強く期待している」と述べた。
JNTOソウル事務所の山田所長が韓国市場の動向を解説した(インバウンド旅行振興フォーラムで)