高湯温泉観光協会 会長 遠藤淳一氏に聞く


遠藤会長

温泉に息づくもてなしのDNA

「源泉かけ流し」を誇りに 未来を見据え、伝統を守る

 ――高湯温泉の魅力は。

 「9カ所の源泉の総湧出量は毎分約3千リットルあり、白い濁り湯の硫黄泉であることが特徴の一つ。源泉の温度はさほど高くなく、最高でも50度くらい。高所から低所へと落差で送湯する過程で温度を管理し、源泉そのままの温泉を楽しんでもらう源泉掛け流しを受け継いでいる。硫黄の濃度が非常に高く、くみ上げようとポンプを設置しても錆(さ)びてしまう。温泉を運ぶ技術は日々進化しているが、伝統的なやり方を守っている」

 ――高評価の声が多い。

 「泉質の良さに加え、乳白色の硫黄泉の中でも高湯の温泉はやや青みがかっている独特の色合いで、雪景色や山々の緑とも相まって美しいと好評を頂戴する」

 ――泉質をより詳しく。

 「当温泉は明治時代から内務省に温泉分析を依頼し、当時から科学的に泉質を精査・分析している。温泉を大事にする気持ちは高湯に息づくDNAのようなもので、『こんな成分がありますよ』と自信を持ってお客さまに利用してもらえる」

 ――「温泉を守る」という思いを強く感じる。

 「地域協定書をつくり、ボーリング工事をしないことなどを取り決めている。高湯は昔ながらの自墳泉で、『ありのまま湧いてくるものこそが温泉だ』という認識。湧出量の減少や水位の低下を受けてもう1本掘りましょう、という温泉地もあるが、湯量が落ちてしまいやすい。自然由来の自墳泉を今後も守る」

 ――高湯温泉の課題は。

 「これからの温泉地、観光地は、女性と若年層の取り込みが一つの鍵になると思う。ご夫婦でも、奥さまの『ここに行きたい』という意思にご主人が従うみたいな(笑い)。若者の旅行離れを耳にするが、箱根や熱海には若いお客さまが多くいらしている。今後はOTAを中心とするインターネット経由でのお客さまもさらに増える。当温泉を懇意にして下さる既存のリピーターがたくさんいることは大変うれしいが、それに満足せず次世代のリピーターの核となる女性や若いお客さまの取り込みを図る」

 「協会のホームページ訪問者を年代別に見ると、35歳から45歳が最多。次いで25歳から35歳。かつては55歳以上が最多だったので、現在は若い皆さんも興味は持って下さっているようだ。一度訪れて下されば必ず魅力を感じてもらえる」

 「私の世代だけだと考えが更新されない。未来を担う地元の若い人たちに他の温泉地をもっと見て、いろいろな考えを出し、提案してほしい」

 ――高湯温泉の自然は、首都圏在住者にとって魅力となるはず。

 「かつては『高湯は携帯電話はつながりません』がうたい文句だったが(笑い)、豊かな自然と素朴さを維持しながら、インターネット環境の構築など時流に沿う整備も引き続き行う必要がある」

 ――旅館業について。

 「先日とある温泉地を訪れたが、老舗と呼ばれる旅館さんの元気がなく、大きい資本の旅館さんがにぎわっていたように感じた。家業を基本とする旅館業は、自然災害への対応や新規顧客の取り込みなどに関して変革を求められている」

 ――最近の入り込みは。

 「今春以降、小規模の宿や共同浴場の『あったか湯』はコロナ禍前並みに回復した。大きい宿は団体客の消失で苦戦しているが、個人、小グループのお客さまを取り込もうと頑張っている。3密を避ける滞在空間づくりや館内の人手不足などにより稼働を抑えて営業している。消毒液の導入などコロナ対策に係る費用負担も大きい。単価を上げてもしっかりと満足感を与えられるサービスの提供に高湯の各施設が注力している」

 「コロナ禍当初、他の温泉地も苦しんだと思うが、当温泉は比較的入り込みの減少幅が小さかった。高湯の温泉の魅力が多くの方に支持され、各施設が頑張っていることもその要因として大きいと思う。理事会や役員会などでも、誰も愚痴一つ言わず、みんな前向きだった。コロナ禍後にはいずれ県民割等の恩恵もなくなるので、しっかりと顧客を獲得できるかどうかが今、試されていると思う」

 ――客単価の引き上げは旅館業の長年の課題だ。

 「大手資本の廉価な宿に予約が集まりやすいが、一方で1泊数十万円のような超高級な価格帯も好調だと聞く。価格に見合う、あるいは価格以上のサービスを提供できるなら、自信を持ってお客さまからお金を頂いて良いと思う。そこに自慢の温泉があるからこそ、高湯は多くのお客さまに支持してもらえていると思う」

 ――取り組みについて。

 「現在実施中の『白濁の湯キャンペーン』に関連し、同様の事業はコロナ禍前、例えば2011年に東日本大震災が発生した数カ月後、宿泊券付きのキャンペーンを実施した。当時もコロナ禍同様、福島県内の温泉地の元気がなく、さまざまなご意見がある中でも県民、そして各宿泊施設を元気にしたいという思いがあった。ようやく制限が解除された今秋、白濁の湯キャンペーンを実施し、1万円の宿泊券を100人に贈呈する。今回も高湯の温泉でみんなを元気にしたい」

 ――メッセージを。

 「高湯温泉は源泉掛け流しの湯が全ての原点。『こういう温泉地でも頑張ってやってるんだ』と多くの方に感じてほしいし、自分たちもそこに誇りを持って頑張っていきたい」

 

えんどう じゅんいち1974年高湯温泉旅館「吾妻屋」を継承。福島県旅館ホテル生活衛生同業組合常務理事、同県温泉協会会長などを歴任し、2005年に高湯温泉観光協会会長に就任。日本秘湯を守る会理事、日本温泉協会理事などを兼務。

【聞き手・内田誉紀】

 
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