11月15日開業の「hotel nansui」 独立系宿泊施設が目指すべき「物語のあるホテル」の姿とは


施設外観(@繁田諭 Satoshi Shigeta)

 坂本龍馬の生家の跡地に11月15日に開業したhotel nansui(ホテルなんすい)。22年2月に閉館した旅館「龍馬の宿 南水」を高知駅近くでビジネスホテル港屋を経営する港屋マネジメント(井口泰社長)が取得。宿泊施設向けプロジェクトマネジメント支援のリテラタス(東京都千代田区、池村友浩社長)がコンセプトメイクから、クリエイター選定、改修事業推進などのホテルプロデュースを担当した。基本構想に7カ月、設計に10カ月、工事に7カ月をかけた。

◇      ◇

 地上7階建ての鉄筋コンクリート造り。改修前の旅館客室は全室30平方メートルの44室。リノベーションで、全33室(スタンダードルーム39平方メートル、スパスイートルーム80平方メートル)のラグジュアリーホテルに生まれ変わった。

 hotel nansui(以下、nansui)のリノベーション事業の特徴は、(1)坂本龍馬生誕の地という稀有(けう)なロケーション(2)既存の建物のリノベーション(3)観光の成長期にある人口30万人の高知市の中心地(4)事業者自身が文化・歴史・経済といった宿泊業を取り巻く社会環境に強い意識を持っていたこと―の4点。

 教科書的な経営コンサルの立場を取れば、エコノミー対応の宿泊特化型ホテルの方が合理的という結論になるが、プロジェクトマネジメントを担当したリテラタスの池村氏は違った。新オーナーである港屋マネジメントの井口氏と共に「高知の、もっとも高知らしい、坂本龍馬の生誕地にしかできないこと」を模索。サステナブルな高単価ホテルを計画した。


客室(@繁田諭 Satoshi Shigeta)

 

 高級ホテルであればあるほど、ハード・ソフト・ヒューマンのどれかが際立っていることよりも全体的なバランスが求められる。昨今はデザイン性だけ、表層的なローカリティの表現だけで、ホテルとして差別化していくことは難しい。ホテルづくりにはデザインのためのデザインではなく、歴史・文化・風土や地域の人々の生活など全てが旅の価値であることを念頭に置き、丁寧なホテルのコンセプトづくりとソフトやサービスへの落とし込みが欠かせない。

 nansuiでは、龍馬をアイコン化するのではなく、この地に育った龍馬が見た景色、体験をどうコンセプトに昇華できるかを課題とした。そのために事業者チーム自体が坂本龍馬の生き様のように「marginal(境界の人)」であろうとする姿勢をとり、「ホテルとはかくあらねばならない」という認知バイアスを徹底的に排除しつつ、nansuiだけのローカル体験が享受できるストーリー性のあるホテル創りを目指した。


フロント・ロビー(@繁田諭 Satoshi Shigeta)

 

 近年の宿泊ゲストの嗜好は、より地域志向・文脈志向となっており、画一的ではなく、よりパーソナライズされたサービスを求める傾向にある。nansuiの開発プロジェクトにおいて池村氏が大切にしたのは「龍馬と向き合う・自分と向き合う、息遣いのある空間や導線」「博物館的でなはく、美術館的な体験」「ホテルとしてのファンダメンタルな価値をしっかりとつくる(古い建物だからといって、不便、不快さを残さない)」ということ。

 龍馬生誕の地という既に失われた文脈を再構築しつつ、商品化できるチームビルディングは事業にとって最も重要なこと。池村氏は、コンペティションを主催し、建築設計管理・インテリアデザインに蘆田暢人建築設計事務所、ファニチャーデザインと製作・アートディレクションにようび、オペレーションデザインにホロニックらを選定した。デザイナーたちとはコンセプトについて深く論議を重ね、デザインをただのコンセプト表現とするのではなく、ゲストにとって「龍馬の息遣い」を感じるためのコミュニケーションにしていこうという考えで一致した。


レストラン(@繁田諭 Satoshi Shigeta)

 

 ハードづくりを通じて共創されたコンセプトは、港屋マネジメントの従業員たちに、nansuiとしての理念やありたい姿を理解してもらうための経営基盤としてバトンタッチされ、サービスデザイン・接遇のあり方を考える礎となっていく。


施設外観(@繁田諭 Satoshi Shigeta)

坂本龍馬生誕の地高知で自分を洗濯する旅へ | hotel nansui

 
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