2012年の年間の訪日外客数は836万8千人で、前々年(10年)との比較で2.8%の減少となり、東日本大震災の前の水準にほぼ回復した。過去最高だった10年の861万1千人に次ぐ2番目の客数。台湾、タイなどが過去最高を記録し、韓国も減少率が縮小した。尖閣諸島を巡る問題で9月以降落ち込んだ中国も年間値では過去最高となった。訪日市場の回復を受けて観光庁は、13年の目標に1千万人を掲げ、プロモーションを強化し、東南アジア市場の拡大などに取り組む。
年間値は、日本政府観光局(JNTO)が1月25日に推計値として発表した。
前年(11年)の621万9千人と比較すると、34.6%の増加だった。訪日外客数は11年3月以降、震災前との比較で15カ月連続のマイナスだったが、12年6月に0.9%増と初めてプラスに転じた。その後は1ケタ台のマイナスが続いたが、11月に2.2%増、12月には6.4%増を記録した。
年間値を市場別にみると、過去最高を記録したのは、台湾(前々年比15.6%増の146万7千人)、中国(同1.2%増の143万人)、タイ(同21.4%増の26万1千人)をはじめ、マレーシア、インドネシア、ベトナム、インド。
最大の訪日市場である韓国は204万4千人で同16.2%の減少だが、12月の前々年同月比の減少率は1.3%に縮小するなど急回復してきた。
アジア以外の主な市場は、米国が前々年比1.4%減の71万7千人、豪州は同8.5%減の20万7千人、英国が同5.3%減の17万4千人、フランスが同13.5%減の13万1千人だった。
訪日市場の回復のプラス要因は、航空座席の供給量拡大や運賃低下、査証(ビザ)の発給要件の緩和などが挙げられる。オープンスカイ協定による就航便やチャーター便の増加、LCC(格安航空会社)の就航などが追い風に。ビザでは、中国向けの個人観光ビザの効果に加え、12年から発給が開始されたタイ、マレーシア、インドネシア向けの数次ビザが需要を喚起した。
一方でマイナス要因には、原発事故に伴う放射能への警戒感、円高基調などがある。放射能への警戒感は和らいではきたものの、韓国、シンガポール、欧州で根強いほか、東北や関東への旅行需要の回復に影響。円の高止まりは、12年終盤には若干緩和されたものの、訪日旅行に不利に働いた。中国に関しては、尖閣諸島の問題が団体客を中心に影響した。
観光庁の井手憲文長官は1月25日の専門紙向け会見で、12年の訪日外客数について「900万人の目標には届かなかったが、震災前のレベルに回復した」と指摘し、13年については「『回復から飛躍へ』をテーマとして1千万人を目標にがんばりたい」と述べた。
13年に重視する取り組みとして井手長官は、在外公館や日系企業との連携によるプロモーションの強化、訪日旅行のブランドの確立を挙げたほか、地方自治体に対しても観光地の認知度を上げるためのPRにとどまらず、具体的なコースやツアーの提案を強化するように期待した。
1千万人の市場別の目標数値は公表していないが、新興市場から成熟市場までそれぞれに上積みを目指す。韓国市場の本格回復を進め、特に地方への誘客を促進するほか、経済の急成長などで需要の喚起が見込める東南アジア市場を拡大。中国市場では、尖閣諸島の問題の影響で団体客の急回復は難しいとしながらも個人客、ビジネス客の増加を狙うと同時に、内陸部へのプロモーションを強化。成熟市場である欧州へのてこ入れも課題に挙げた。