政府は10日、今年度の「観光白書」を発表した。2013年の観光を目的とした国内旅行の延べ人数は、宿泊、日帰りともに前年に比べて増加した。国民1人当たりの国内宿泊観光旅行の年間回数・宿泊数も増えた。主な要因として、円安の動きと、中国、韓国との外交関係の悪化に伴う、海外旅行から国内旅行へのシフトを挙げた。国内観光の統計指標は2年連続で上向いたが、09年に近い水準に回復したに過ぎず、短期的な要因によるところも大きい。
13年の国内観光旅行の延べ人数は、宿泊観光が1億8191万人で前年比5.9%(約1015万人)の増加、日帰り観光が2億1155万人で同8.0%(約1565万人)の増加。ともに東日本大震災の発生前の2010年(宿泊1億6906万人、日帰り2億276万人)を上回った。
国民1人当たりの国内宿泊観光旅行の年間回数(暫定値)は前年比0.8回増の1.43回、年間宿泊数(同)は同0.21泊増の2.35泊だった。回数、宿泊数は、06年の1.71回、2.74泊あたりから減少傾向にあったが、2年連続の増加となった。水準としては09年の1.46回、2.38泊に近い数値には回復した。
国内宿泊観光旅行の増加について、観光白書では「昨今の日中・日韓関係の影響、円安方向の動きによる旅行代金の割高感等により、海外旅行から国内旅行にシフトする動きが出てきたことが主な要因」と分析した。
国内旅行へのシフトがあったとされる海外旅行の状況は、13年の日本人旅行者数が前年比5.5%(約102万人)減の1747万人。旅行先では、東南アジアなどで増加した国が見られるが、韓国は同21.9%(約77万人)の減少、中国は同18.2%(約64万人)の減少だった。
国内観光に関する観光白書の記述ついて、観光庁観光戦略課調査室の山本史門室長は「リーマンショックや震災の影響から持ち直した感はあるが、顕著な回復基調にあるとは言えない。韓国、中国への日本人海外旅行者数は、前年に比べて合わせて141万人ほど減少したことから、国内旅行へのシフトがあったと分析した」と述べた。
観光白書は、国内観光の増加要因に関して、海外旅行からのシフトに加えて、「伊勢神宮の式年遷宮、富士山の世界遺産登録等の旅行需要を創出する出来事があったことが一因」とも指摘した。
国内観光市場の活性化に施策を
13年の数値が2.35泊となった国民1人当たりの国内観光旅行の年間宿泊数は、観光立国推進基本法に基づき12年3月に閣議決定された基本計画には、16年までに2.5泊とする目標が設定されている。観光宿泊旅行が年間0回の層を減らすことや若者層の需要を喚起することも併せてうたわれている。
訪日外国人旅行の市場が拡大する一方で、国内旅行市場は、中長期的な国内人口の減少を背景に成長分野とみられないことが多い。しかし、日本人の国内旅行による消費額(12年)は年間約19兆7千億円で、海外旅行、訪日外国人旅行を含めた旅行消費額全体22兆5千億円の88%を占めている。震災被災地を含めて地域の活性化への波及効果は大きい。地域づくり、旅行商品造成、需要喚起など、官民を挙げた取り組みを強化する必要がある。