
三日月知事と金子副会長
大阪・関西万博(大阪・夢洲)が開幕した。海外と国民の接点などを生んだ70年万博だが、25年万博は観光にどんなレガシーを残せるのか。関西各府県・旅館業界の取り組みや思いをリレー対談で紹介する。4回目は滋賀県。(聞き手は本社関西支局長・小林茉莉)
新たな旅「シガリズム」体験しに来て
――滋賀県の万博関連事業のコンセプトや取り組み内容を伺いたい。
三日月 当県は「Mother Lake~びわ湖とともに脈々と~」をテーマに万博に参加しており、万博会場では関西パビリオンの一角に滋賀県ブースを設置している。琵琶湖と一緒に歩んできた滋賀の歴史や、水と共にある私たちの暮らし、その中で培ってきた文化や産業などを映像と光のアートで紹介している。当県のさまざまな映像を壁面のスクリーンに映し出し、それと連動する形で450個の光る球体が空間の中で動く「キネティック・ライト・ビジョン」という装置で来場者に滋賀の魅力をお伝えする。こういう新しい手法を使うほか、県産品も随所に活用して、滋賀県に行ってみたいと感じてもらえるような展示としている。
6月末と8月末には滋賀魅力体験ウイークで、「健康しが」「Mother Lake Goals(MLGs)」をテーマに官民で見どころや特産品などの魅力を発信する。7月24日には滋賀県デイとして、EXPOホールでステージイベントを行う予定だ。
金子 私はまだ万博に行けていないのだが、キネティック・ライト・ビジョンが気になっているので、早く行くつもりだ。どういった滋賀の魅力、琵琶湖の魅力の発信をしているのか、興味があるし期待している。万博で、琵琶湖と共にある私たちの暮らしを理解してもらったり、滋賀に足を運びたくなったりするように、興味をつなげていってほしい。
三日月 当県は琵琶湖をはじめとする豊かな自然がある一方で、約140万人が周辺に住み、重化学工業の生産が国内トップクラスだ。なぜそれが可能なのか、多くの海外首脳が興味を持つ。滋賀県ブースで滋賀に興味を持った企業からの視察などにもつなげたい。
三日月知事
――県内の旅館ホテルの万博に向けた取り組みはどうか。
金子 全てのお客さまに快く過ごしていただけるよう皆さん毎日やっているので、その点は万博だから特別にということはない。だが、万博会場と滋賀県の距離感などが分かりづらいのではないかと思い、私の宿ではかなり前から、会場への電車の乗り継ぎ方法など、アクセス情報を説明した上で営業活動するように心がけている。また、2年ぐらい前から全ての送迎バスと営業車を万博デザインのナンバーに変えた。お客さまに「滋賀も万博に関連するワクワクするエリアなんだよ」と分かってほしいとの思いからだ。
開幕して万博の様子も分かってきたので、万博に絡めたいろんな方策が可能性としてはあると思っている。
――万博関連の取り組みは滋賀の観光にどのようなレガシーを残せるか。
三日月 この万博で、いろいろなものが感じられるし、学べるのではないかと思っている。日本は地震などが多発する災害列島だが、そんな中で皆が助け合って生きている。その「生きている」ということを味わいながら実感する場が万博だし、万博の前後に宿泊してその土地を体感することも、生きていることを実感する手段なのだと思う。
日本は長寿国になったが、それに伴うさまざまな課題、悩みがある。それらに対する知恵や努力が表現される万博でもある。「旅は終(つい)の栖(すみか)の一里塚」と言われるならば、「滋賀県で自分の一生を終えられたらいいね」と感じてもらえる、万博や前後の滋賀への旅がそういう場になったらいい。
また滋賀県民は水と共に暮らしており、生き物のこと、下流のことを考えて、「水を使わせていただく」という意識が自然にある。観光客には一時的な県民として、県内の旅館ホテルで環境に優しいアメニティグッズを率先して使うなど、協力いただいている。自然と歩みをそろえた暮らしや歴史文化、アクティビティに触れて心のリズムを整える旅を、新たに「シガリズム」と位置付け、観光キャンペーンも始めた。万博の取り組みと並行して、新しい滋賀を感じていただける旅を今後浸透させたい。
金子 真ん中に琵琶湖という大きな古代湖があるということだけでも、滋賀県は他の場所とは何か違うのではないかなと思っている。そのそばでSDGsという言葉がない頃から、われわれは琵琶湖と共に自然を大切にしながら生きてきた。それをできるだけ多くの人に知ってもらい、現地に来て感じてもらうこともレガシーになる。
滋賀は自然も食も豊かで魅力的だし、災害も少なく、私を含め多くの県民が幸せを感じている。そんな土地柄を県外の方にも味わっていただきたい。併せて、この恵まれた環境が当たり前になってしまっている地元の皆さんにも、万博を契機に、ぜひ滋賀の魅力を再発見してもらいたい。
金子副会長
幸せに満ちた土地の魅力広める機会に
――滋賀県の宿、宿泊の魅力は。
三日月 金子副会長の宿から見える、琵琶湖の対岸にのぼる朝日が素晴らしい。生命感がみなぎってくる感じがする。滋賀の宿は、朝昼夕とそれぞれの魅力がある。
春夏秋冬それぞれの恵みがいただけるのが魅力だ。食は観光において重要な要素。現在県内の旅館ホテル、レストランと「びわ湖魚グルメ」というメニュー開発を行っている。琵琶湖の湖魚と県産農産品を組み合わせた新しいメニューを作って紹介する取り組みだ。エビ豆を使ったアイスクリームなどを、定番の食べ方に合わせて楽しんでいただくことも進めたい。
――魅力の発信やコンテンツ作りはどうか。
三日月 やはり朝と夜だ。ナイトアミューズメントをいかに充実させるのか。花火やナイトクルーズ、ナイトミュージアムといった企画なども工夫できると思っている。
滋賀は、米はもちろん、みそ、お茶、漬物もおいしいので、朝ごはんがおいしい。「滋賀の朝飯を食べて活力を養いませんか」とアピールできる。こだわりの朝食を出す取り組みをあちこちでやれば、他にないおもてなしができるのではないか。
金子 人気の京都に近いのに加え、ウォータースポーツやスキーなどのアクティビティが滋賀にはたくさんある。比良比叡トレイル、高島トレイルなどは、すてきな景色を楽しみながらトレッキングができる。道中には文化財もたくさんある。地理的、歴史的ストーリーを持つ山を歩けるのも、滋賀だからこそ。サイクリングでは、琵琶湖を一周する「ビワイチ」がインバウンド客含め人気だ。最近は車や電車でのビワイチもあれば、ぐるりと琵琶湖を囲む山を歩く「山のビワイチ」もある。滋賀で楽しめることは山ほどある。
三日月 万博会場をはじめとする大阪はもちろん、京都でも、もっと滋賀、琵琶湖の観光のコンテンツを紹介するような取り組みも強化したい。「京都とは違う楽しみ方ができますよ」とアピールできれば、足を延ばしてもう1泊しようとなるはず。需要の取り合いではなく、増やしていく訴求が大切だ。
――真ん中にある琵琶湖を活用した湖上交通の取り組みはどうか。
三日月 まだまだ可能性がある。県でも拠点となる大津港の活性化プロジェクトを動かし始めている。おごと温泉と県立琵琶湖博物館、大津港と新施設「LAGO 大津」を結ぶ航路など、湖上交通で主要な観光施設を周遊する航路などをつくり一つの目玉にしていきたい。大津港には27年に文化財を集めた新しい琵琶湖文化館も開く。歴史文化に触れることで、船で近江今津や長浜に行ってみようと考えてもらえるようにもしたい。
金子 船上からの琵琶湖の眺めは素晴らしく、おすすめだ。かつて琵琶湖にはたくさんの船が行き交っていたそうだ。今は使われておらず、荒廃してしまっている港がいくつもある。そういったところの整備と併せて、湖上交通の活性化を実現してほしい。
三日月 実は琵琶湖の水辺にたくさん生えているヨシを使った生地で作成した帽子が、万博スタッフのユニフォームに採用されるなど、いのちの源である「水」を媒介として当県と万博、未来がつながっている。そういうストーリーを大事にしたいし、そういった万博とのつながりも、旅館ホテルの皆さんからお客さまに紹介してほしい。
金子 万博というめったにないチャンスを前に、本当にワクワクしている。宿泊観光関係者一同、県と連携しながら盛り上げていきたい。
滋賀は世界的に知られておらず、今は「京都の隣」ということからしかセールスを始められない。1回来たらリピーターになっていただける自信はある。まずは滋賀に一歩踏み入れてもらうために、あらゆる手段を使って発信していきたい。
万博や滋賀観光の魅力について意見を交わした(滋賀県公館にて)