日本観光振興協会の企画委員会(委員長・光山清秀JTB取締役専務執行役員)は7月31日、観光施策に関する要望書「令和2年度に向けた要望事項~観光先進国実現に向けて~」を観光庁に提出した。2020(令和2)年度に東日本大震災の発生から10年の節目を迎えることを踏まえ、観光を通じた東北復興支援策の強化を要望したほか、訪日外国人旅行者の地方誘客を促す二次交通の充実策などについて予算化を求めた。
日観振企画委 要望書の全文
「令和2年度に向けた要望事項~観光先進国実現に向けて~」
1 はじめに
訪日外国人旅行者が昨年3千万人を突破し、4千万人時代に向けて着実な歩みを進めるなか、観光は成長産業として日本経済において重要な役割を担うに至っている。また世界的に見ても観光は成長を続けており観光の持つ力の重要性は一層増してきている。
わが国の観光振興に関する中枢機関としての役割を果たし、観光先進国の実現を図ることを目指す当協会として、次の項目について予算に盛り込まれることを要望する。
2 ご要望
(1)観光による「東北復興」支援に向けた官民合同の取り組み強化
東日本大震災より8年が経過し、これまでも官民挙げて観光の力による東北復興支援に取り組んできたところである。来年はいよいよ東北復興五輪と位置付けられている2020東京五輪・パラリンピック大会を迎え、その翌年には震災より10年が経過することとなる。さらなる東北復興に向けての気運を官民一体となり高め、地域の観光力向上、観光産業の強化を支援していくことが求められている。
【具体的施策の例】
〇観光業全体での東北への誘客施策の取り組み(復興五輪~DC)
〇2020東京五輪・パラリンピック大会開催時における観光客の東京一極集中から東北エリアへの分散施策の推進
〇2020東京五輪・パラリンピック大会開催を契機とした東北エリアの情報発信事業の展開
『観光による東北復興支援シンポジウム(キャラバン)』の開催(官民共催)(2020年~2021年:全国8カ所程度で順次開催、2021年冬に仙台で東北DCと連携)
(2)二次交通の充実による観光客の地方誘客の取り組み強化
訪日外国人旅行者の急増を踏まえ、「明日の日本を支える観光ビジョン」において、地方部での外国人延べ宿泊者数2020年7千万人泊の実現を目指している。一方で少子高齢化、人口減少などの影響により地方における交通公共機関は縮小を余儀なくされ観光客における二次交通が大きな課題となっている。そこで、近年、新たな手法として注目をされている「観光MaaS」について普及・環境整備を加速させるとともに必要な調査を行うことにより、インバウンド需要を地方誘客につなげるツールとして活用を検討する必要がある。
【具体的施策の例】
〇観光におけるMaaSの調査、研究
〇路線バスや船舶時刻表のデジタル化の検討
〇『観光MaaSシンポジウム』の開催によるDMOなどへの普及活動
(3)観光人材の育成事業の充実
魅力ある観光地域づくりを推進するために、地方における観光人材の育成は喫緊の課題である。観光MBAでのトップ人材育成の取り組み等も開始されているが、実務を担う地方の中核人材育成の底上げに向けて官民による実践的で体系的な育成事業の充実が求められる。観光庁、内閣府事業などで作られた研修講座を総合的に活用することで実務者育成を図る。
【具体的施策の例】
〇「日本観光振興ビジネスカレッジ(仮称)」の設立による観光人材の育成
(4)日本人の海外・国内旅行の促進
日本人海外渡航者数は2020年2千万人の目標に向けて、昨年は1800万人を突破したものの、日本人の海外出国率は依然として低調に推移している。一方、訪日外国人消費額は昨年度4.5兆円と過去最高を記録しているが、日本人国内旅行消費額は前年を下回っている。双方向での観光流動が課題となるなかでのアウトバウンド拡大と働き方改革に併せた国内旅行の振興に努める必要がある。
【具体的施策の例】
〇「ポジティブ・オフ」運動やキッズウィークなどの休暇制度および働き方改革推進を活用した国内旅行の需要喚起
〇教育旅行・留学の促進などを通じた若者の双方向交流推進やパスポート取得手続き簡素化の検討
(5)技術を活用した受入環境整備の充実
訪日外国人旅行者に対する受入環境整備の促進とあわせ、高齢者・身障者向けの受入環境整備について課題解決に取り組む必要がある。特に宿泊施設の対応は喫緊の課題であり、従来の施設改修に加えて先端技術の活用による解決策の展開にも期待をする。
【具体的施策の例】
〇訪日外国人旅行者向けの新しい観光資源(体験、アクティビティなど)の多言語化の整備
〇災害に強い観光を目指した被災地宿泊施設状況を一元管理できるプラットフォームの構築
〇高齢者社会等に対応した宿泊施設のバリアフリー化
3 おわりに
当協会は、さらなる国内外の観光に対する期待に応えていくため、観光先進国実現のための国民運動の展開、産業と地域の担い手となる人材の育成、国際競争力のある魅力ある観光地域作り、新たな観光需要の創造、双方向交流促進の五つを柱に、観光立国推進協議会の活動等を通じて各種事業を展開している。
今回のご提案申し上げた5項目について、実現を目指し真摯な検討が開始されることを切望する。