先の予約「半分以下」も
救済措置、正しい情報発信求める
観光経済新聞社は2月15~29日、全国の主な旅館約200軒に新型コロナウイルスの影響に関するアンケート調査を行った。外国人客、日本人客を問わずキャンセルが多発し、9割超が「風評被害を受けている」と回答。先の予約も「通常の半分以下」など、厳しい状況が浮き彫りとなった。国や地方自治体、業界団体には事態の早期収束をはじめ、損失への救済措置、正しい情報発信などを求めている。
東北地方の大型旅館は2月25日時点で約6千人の宿泊キャンセルが発生。被害金額はおよそ1億1千万円に及ぶ。国籍別ではFIT中心の外国人が2%、残りの98%が日本人だ。「昨年の台風19号以上のキャンセルが先々まで出ている。収束の見通しを早く出してほしい」。
中部地方の大型旅館はこれまでに約9千人のキャンセルが発生し、被害金額は1億2千万円以上。「検査体制を整えて、一刻も早い結果発表と、その対応処置を望む」と、肺炎患者に対する国の検査体制の在り方にも言及している。
九州地方の旅館は、新型コロナウイルス関連で3千人以上のキャンセルが発生し、被害金額は3千万円以上。台湾からのインバウンドほか、「修学旅行のキャンセルが多数発生している」状況だ。国の税制や金融支援、雇用調整助成金制度の拡充、収束後の誘客対策を求めている。
キャンセル料に関して言及する回答も目立つ。中国四国地方の旅館は「キャンセル料発生時期に入ってからのキャンセルであるにも関わらず、事情が事情だけにご案内が難しい。(キャンセル料が)当たり前に収受できる業界でありたい」。九州地方の旅館は新型コロナウイルスが原因のキャンセルについて「統一の規定を示してほしい」と業界団体などに要望する。
中部地方の大型旅館は「マスコミの報道が過剰。日本で1年間に肺炎でお亡くなりになっている人数等も伝えてほしい」と報道の在り方に疑問を投げかけている。
国の情報発信やメディアの報道姿勢については「連日の報道が自粛を促す、不安をあおるようなものばかりなのが残念」「メディアは感染した個人、場所を必要以上に追求しすぎ、風評を増長させている」「冷静な報道と正確な情報提供を望む」と、特にメディアの過熱ぶりを疑問視している。
厳しい経営環境の中、現在行っている誘客対策も聞いた。「様子見」「特になし」が多い一方、「団体より個人、遠くより近くのお客さまの集客に努めている」(東北)と、地元の顧客誘致に注力する旅館や、「館内での予防の取り組みをホームページや館内掲示で告知。個室食事どころや1人1室利用を確約するプランの新設」(関東)と、安全面をアピールする旅館もあった。「グループ・団体旅行の中止を延期にするよう営業」(関東)し、成功している例もあった。
料金については「期間限定割引」や、「元来、閑散期のため、価格の下げは難しい」(ともに関西)と、対応はさまざまだ。
今回の調査で回答旅館の92%が新型コロナウイルスにより「風評被害を受けていると感じる」と回答。「感じていない」とする少数の旅館も、「これから国内旅行も自粛の方向に行きそう。そうなると大きな影響が出る」「今後が心配。3、4月の予約の伸びが鈍い」と先行きに危機感を抱いている。
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「国や地方自治体、業界団体などへの要望」では、前述以外に次のような声が挙がっている。
「正しい情報発信の徹底」(北海道)。
「収束後の対応を、特定の地域に偏ることなく全国均一で実施してもらいたい」(東北)。
「ウイルス予防に対して、マスク等の支援をしてほしい(不足している)。損失に対しての救済措置があれば助かる」(東北)。
「不要、不急は理解するが、安全に旅行(外出)するにはどうしたらよいかなど、プラスの情報発信を望む」(東北)。
「現在、マスクを着用してのサービス提供を行っているが、会社で保有している在庫が残りわずかとなっている。お客さまに安心いただくために、物資支援がいただけると大変ありがたい」(関東)。
「健康不良者が出た場合の受け入れ病院の整備。一般旅行者のための予防ガイドラインなど」(関東)。
「地方の観光産業全体に大きな影響が出ている。それに対するフォローをお願いしたい」(中部)。
「国民の不安が広がれば、旅行控えのムードになるのでは。インバウンドのみならず、全体的な消費の落ち込みになる。地方自治体ごとが正確な状況をつかみ、風評被害とならないよう、地域の元気アピールが必要」(関西)。
「まずは日本人間での感染拡大予防と、中華系顧客への日本人による差別的言動抑止のための広報に力を注いでほしい。また、ウイルス禍の後の回復に向けた早めの施策(国内外へのPRと正しい情報の発信)を進めてほしい」(関西)。
「各メディアへの過剰報道の自粛要請。観光業界への助成金(予算)」(中国四国)。
「1日も早い収束と不安解消。金融、労務支援」(中国四国)。
「コロナウイルス自体、心配ではあるが、観光業の動きを鈍らせるような行動は控えてほしい」(中国四国)。
「売り上げ減が資金繰りに影響を及ぼすことを懸念。新規予約の問い合わせが通常の半分以下。国内旅行の自粛ムードが起こっている。電話での予約問い合わせに対し、中国人は泊まっていないか、との確認もあり、今後の対応に苦慮」(中国四国)。
「収束後の対策(国内、インバウンドともに)。連休の設置」(九州)。
「終息までの宿泊減に対応する処置(消費税や社会保険料などの納付猶予)」(九州)。