【観光立国・その夢と現実 34】新しき年・令和5年に思う 小原健史


 謹賀新年。新たな年の幕開けを寿(ことほ)ぎ、本年こそ旅館ホテル業や観光産業全体が新型コロナ感染症の頸木(くびき)から解き放たれ、大いなる繁栄をされんことをお祈りしたい。

 新年早々、深刻な話題で恐縮であるが、新型コロナの災禍は日本政府が提唱した感染防止のための「外出自粛」が、結果的に〔旅館ホテルの売り上げの急減〕をもたらしたが、加えて「3密回避」などの呼びかけもあり、永年にわたり培ってきた旅館や飲食店の接客サービスなどにも質的な変化をもたらした。

 さらに、売り上げの急減に伴い国の支援策である“雇用調整助成金”が支給されたものの、3年を超える長期間にわたったこともあり現場のスタッフの離散、新規人事募集の中断により、現在、深刻な労働力不足に陥っている。

 言い過ぎを承知で角度を変えてみれば、旅館ホテル業はこの数年、新型コロナ感染症という大災害にあって、その経営や営業の基盤は根こそぎ崩壊した。よってこの新しい年である令和5年から、全く新しい事業としての〔宿泊事業〕を開始すると考えた方が、旅館ホテルの再建・再生はやりやすいのではないだろうか!

 誤解を恐れずに言えば、〈あの苦しい資金繰りの、あの人手の足りない、そのままの旅館経営に、あなたは、また戻りますか?〉と問いたい。当然、コロナの前からの借入金は残る。また、以前からのお得意さまもおられる。かなり離散したとはいえ、どこにも行けないベテランの従業員はいる…そうこう考える時に、改革・革新の気持ちはなえてしまうのではないか! 決して、そうなってほしくない!

 かく言う筆者は、1990年ごろをピークにしたバブル経済の崩壊を体験し、旅館業から派生したテーマパーク事業の破綻を経験した。大手金融会社の傘下に入り再生は果たしたもののその最中の苦衷は筆舌に尽くし難い。心に背中にその深い傷がある。しかし、振り返れば、100億円の借金を潜り抜けて、現在はぬけぬけとこのコラムを執筆している。また、74歳ながら事業で〔もうひと花咲かせる!〕と確信しているのも事実である。

 コロナ禍で苦しむ旅館ホテル、飲食店の経営者の皆さん、その苦しみの中にチャンスはないか? 堂々巡りの愚痴や悲観に落ち込んでいないか? 一度だけの人生だ、前を向いて事業を革新しようではないか!

 「やればできる!」。これは、1700億円もの二重課税の悪税であった〔特別地方消費税の廃止〕を、政治家も中央官庁も、マスコミも、旅館業界の人でさえ誰も撤廃できるとは思っていなかったその悪税撤廃を完遂した際の対策本部メンバーや旅館経営者が肌身で感じた言葉だ!

 あなたの事業も〔やればできる〕はずだ! 要は、事業再生、革新的な旅館業の構築である。例えば、〈人手不足〉の解決は、まず、給料・賃金を上げれば良い! 人手不足の事業所は押し並べて給料・賃金が安い! 旅館経営を一からやり直すなら、売り上げや料金も見直す。その中で人件費は結果の調整でなく、新しい事業計画の中で、明確にスタッフがやりがいのある金額にアップする。(個人的な話で恐縮ながら)現在、私が役員として席を置くわれわれ小原グループの警備会社では、最低賃金に抵触する臨時スタッフの賃金を一気に上げ、加えて社員全員のベースアップも昨年春に実施した。その結果はGOOD!である。スタッフにやる気が出てきた。

 そして祖業が旅館ホテルなので、その警備会社の社長は〔サービス精神豊かなガードマンの教育〕を掲げ成果を上げている。その講師は、私自身であるが旅館業を主として経営していた時以上に一所懸命にサービス精神の復習に勤しんでいる。この事実は旅館業の革新の参考にならないか? 私は本気で考えている。

 さあ、新しい年は、目線を落とさず、前を向いて、太陽と青空を見上げて頑張ろう。われわれは生きているではないか!!

(元全旅連会長)

 
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