政府の観光立国推進戦略会議(座長=牛尾治朗・ウシオ電機会長)は13日、首相官邸で会合を開き、2020年に訪日外国人旅行者2千万人を実現するための提言を決定した。2千万人を迎え入れる社会構造への転換を「第二の開国」として、新しい国の成長戦略に明確に位置づけ、強力に推し進めるべきだと提言。日本の魅力の1つである「もてなし」の精神を高揚させて受け入れ態勢を整備し、旅行者の高い満足度を勝ち得る旅行先「プレミアム・デスティネーション」をキーワードに日本ブランドを確立するよう求めた。
同日の会合には、学識経験者でつくる戦略会議のメンバーのほか、河村建夫内閣官房長官、金子一義国土交通・観光立国担当相、本保芳明観光庁長官、関係省庁の幹部らが出席した。戦略会議の下に設置した観光実務に関するワーキンググループ(座長=須田寛・東海旅客鉄道相談役)での検討を踏まえて提言を決定した。
提言の表題は「訪日外国人2千万人時代の実現へ」。サブタイトルには「もてなしの心によるあこがれの国づくり(第二の開国)」と付けた。
2千万人実現の意義には、国際相互理解の増進と、日本経済とくに地域経済の活性化を挙げた。その上で戦略会議は、インバウンド市場が「21世紀のわが国の持続的成長を支える数少ない市場」であるとして、「観光立国の実現を最優先課題と位置づけ、『第二の開国』を英断を持って推し進めなければならない」と訴えた。そのためには産学官の資源を結集し、「目指すべき市場規模に見合った資源を投入する必要がある」とも指摘した。
戦略会議の提言では、昨年夏以降の経済情勢に関して、インバウンド市場にも「世界的な景気低迷の影響が及んでいる」と触れた上で、世界の観光市場は将来の成長が見込まれる分野と強調、中長期的な戦略のもとで課題に取り組んでいく姿勢を重視した。提言の公表に合わせ、牛尾座長は「大変な逆風となっているが、今必要なことは将来の成長に向けた布石を打つこと」との談話を発表した。
プレミアムな日本 質向上から量拡大
2千万人実現に向けた具体的な方策では、海外プロモーションのあり方として、質の高い観光を求める世界の旅行者を満足させられるプレミアム・デスティネーションを日本のブランドに位置づけ、他国との差別化を図るように提案した。ブランドの中核には、日本独自の文化や芸術、生活環境など多様な魅力を据え、世界に発信することを重視した。
プレミアム・デスティネーションのブランドに沿った訪日旅行の“質”の向上を、旅行者の“量”の拡大にもつなげる意識を関係者が共有するようにも求めた。富裕層旅行者の誘致などへの取り組みを通じた受け入れ態勢の向上が一般旅行者の増加にもつながる「好循環を作り上げることが2千万人の目標達成に必要」と指摘した。
地方への外国人旅行者の誘致に向けては、国や日本政府観光局に、地方が持つ魅力の情報発信に加え、地域へのマーケティング情報やノウハウの提供、地域間の連携の調整を行うように提言。また、海外プロモーション拠点については、市場動向を踏まえた新たな拠点の整備の必要性にも言及した。
訪日旅行の快適化 産業に国際競争力
受け入れ態勢の整備では、プレミアム・デスティネーションにふさわしい水準を目指して、国、地方自治体、事業者それぞれの役割、課題を明確化し、計画的に取り組む必要性を強調した。出入国や移動、滞在中の快適性を追求することのほか、観光産業に対しては国際競争力の強化を求めた。
快適に旅行ができる環境整備に向けた当面の取り組みでは、査証(ビザ)の発給要件緩和や入国審査の迅速化、交通機関などの案内表記の多言語化、クレジットカード利用や両替の容易化などを重視した。
観光産業の国際競争力の強化では、旅行業に関して、日本の旅行会社がグローバルな事業展開を目指す際に問題となる諸外国の規制(中国での外資系旅行会社に対する中国人海外旅行業務規制など)に対して必要な働きかけを行うよう提言。
産業界を支える人材育成も重視し、経営のマネジメント層を担う人材の確保に向け、産学官の連携、教育機関でのカリキュラム充実を求めた。
また、「もてなしの国・日本」を実感してもらえることが、受け入れ態勢のあるべき姿だとして、国民的な運動の必要性も指摘した。