
行政の仕事が多い私は年度末になると補助事業を総括する会議に連日出席しています。
いくつかの温泉地に有識者支援として入らせていただいていますが、そこで気付くのが、温泉地の皆さんが、意外にも、温泉の魅力の発信の術についてお悩みであることです。
観光庁の地域観光“新発見”事業では、野沢温泉と関わらせてもらいました。
野沢温泉はスノーシーズンはインバウンド含め繁忙期ですが、グリーンシーズンは閑散期のため、企業の研修先として誘致できないかと非常に魅力的な研修プログラムを造成しました。通年の集客向上による雇用の標準化を意識してのこと。閑散期の集客は、どの地域も大きな課題ですので、野沢温泉の取り組みは大きな意味を成します。
ポイントは、ワーケーションなどを受け入れているほかの地域との差別化です。野沢温泉で研修をする明確なメリットを示すならば、強みはやはり温泉であると私は考えます。
例えば、野沢の名物の共同湯めぐりをする際に、熱いお湯に入ることの効果効能です。
野沢温泉がしっかりとした源泉管理ゆえの上質な温泉を提供していることをアピ山崎まゆみのちょっとよろしいですか 151 温泉地の魅力の伝え方ールし、それがどのように身体に影響を及ぼすのか、データを持って示せたら、それは温泉文化ユネスコ登録に向けても、実にいい事例となるでしょう。
埋もれないように、キャッチーで訴求力のある表現(言葉)も必要でしょう。
また、関東運輸局の江戸街道プロジェクトの支援で、群馬県みなかみ温泉を再訪した際にも、「みなかみ18湯」の魅力の伝え方が話題に上がりました。
みなかみは群馬県北限に位置し、谷川岳、三国山等の谷川連峰の麓に、18カ所の温泉が点在しています。泉質は硫酸塩泉が多く無色透明でクセのないなめらかなお湯が魅力です。
「みなかみ18湯」の魅力の示し方を考えた時、すぐに思い浮かんだとある温泉地のWebサイトがあります。残念ながらWebはリニューアルされており、実用的だったサイトは観覧できません。
かつては「〇種類(泉質)の温泉が楽しめる」「〇色のお湯の色を楽しめる」「性質(酸性、アルカリ性、中性)から選ぶ」「効果効能から選ぶ! 美肌、冷え性、疲労、治療、ストレス発散」、他にも貸し切り風呂の有無などの条件があり、選んでクリックすると該当する宿のサイトに飛べたのです。宿ごとに温泉の泉質、お風呂環境が簡単に表記されていて、利用者に親切な作りでした。
加えて、熊本県黒川温泉の「黒川温泉 湯めぐり絵地図」も思い出しました。ここには「お肌に合わせた湯めぐり法」と題して、宿ごとに異なる泉質を示し、泉質を選んで、順番にめぐることで、健康や美肌により効果となる湯めぐりがわかるようになっています。もちろん、泉質ごとの効果効能も明記されています。
手前みそではありますが、私が教えている跡見学園女子大学では、自分の肌質と泉質を考慮し、自分とマッチングする温泉を選ぶことを「マイ温泉」と銘打ち、自分に合う温泉探しを授業で行います。泉質の効果効能のみを伝えただけでは、学生さんは温泉に興味を持ってくれません。
このように事例を挙げた理由は、温泉地の魅力を届けるために最も大切なのは、利用者の視点に立つことだと伝えたかったからです。利用者がほしい情報を示してこそ、集客につながります。
もし私が温泉地の公式Webを作成するなら、ウリをしっかり提示した上で、お客さんからの問い合わせが多い項目をわかりやすく並べ、それら項目から好みを選んでクリックすれば、該当する宿のWebに飛べるシンプルな作りにします。今なら「ユニバーサルデザインの客室」などは関心が高い項目かもしれません。
(温泉エッセイスト)
(観光経済新聞2025年2月24日号掲載コラム)