ベストセレクション

筑後川支流、田の原川の渓流に寄り添う黒川温泉。優彩ではその素朴な里山の風情とは一変して非日常な空間へと引き込まれる。アーティストによる灯籠や鉄製吊花器、カリグラフィなども目を惹く。行燈が夢幻な趣を醸す廊下の先には『灯小路特別室』。その意匠にも驚く。渓流への眺めに癒されるモダン空間は、建具や装飾、有田焼仕様の色鮮やかな洗面台、特注寝具など細部にまでこだわった造りだ。露天風呂付特別室や草花の室名をタペストリーで飾った和室の風情もいい。非日常感は湯空間でさらに極まる。『まほろばの湯場』の「竹林の湯」が特に印象深い。竹林に囲まれているせいなのか、一瞬露天風呂を思わせる。しかも夜はライトアップされ、幽玄な光で魅了する。湯場には滝壺の音が響く屋根付露天風呂や２つの檜風呂の内湯も備え、地元の入湯手形では入れないプレミアムな湯浴みを演出している。露天風呂と大浴場、屋外テラスを備えた『やわらぎの湯場』と杉の六角形浴槽の貸切露天風呂も人気を呼ぶ。食事はプランに応じて食事処が変わる。囲炉裏空間や和室テーブル、芝居小屋のような大広間と、食空間も趣向に富む。食事は旅館とは思えない創作料理。馬刺しをはじめ地元食材もふんだんに質と量で圧倒する。食前酒から前菜、名物、鍋物…と一品一品に料理長の創意工夫が光る。

究極の非日常の演出がこの地唯一の本格的天文台『そらしるべ』だ。大気が澄んだ湯峡は星空観測には絶好。屋上の天体ドームには３台の高精度の望遠鏡が設置され、プロの星空案内人のガイドを聞きながら星雲や星座、月や惑星、太陽プロミネンスなどが観測できる。こんなもてなしの宿があるだろうか。光瞬く星空を見上げながらそんなことを思う。