ベストセレクション

薩摩半島南端に位置する指宿の海沿いは南国気分あふれる別天地。錦江湾に面した５万坪の敷地に建つ指宿白水館は、その温暖な気候の中に多彩すぎるほどの楽しみを提供している。宿の方に魅力は？と問えば「庭園、部屋、温泉、料理の全部です」という答えが返ってくる。さすが旅館ホテル２５０選すべてのカテゴリーでトップレベルに選ばれるほどの宿である。その言葉を聞いただけで期待感に胸が膨らむ。

重厚な玄関ロビーをくぐりぬけると２つの庭園が広がっている。左に『磯客殿』『花の棟』『薩摩客殿』に抱かれた「白水庭」。右に錦江湾へと視界が開けた「豊松庭」、そして『離宮』。芝生の緑も見事なら、その先の松林もすばらしい。白砂青松、絵のような眺めである。海辺を散策すれば、天候にもよるが沖合に浮かぶ知林ヶ島を目にすることもできる。夜になれば建物や木々がライトアップされ何ともいえない情感を描き出す。この庭園を眺めるラウンジ『豊松』には骨董品なども飾られており、薩摩路の彩りにも包まれる。滞在中はこの庭園が心の拠り所になる。

客室は品格ある和の佇まいの中に快適さへの気配りがなされている。錦江湾を眺める磯客殿には檜風呂を備えた二間和室と和洋室、花の棟には和室と洋室、和洋室、高層の薩摩客殿にはツインベッド和洋室が揃う。もうひとつの客室棟『離宮』は全室が豊松庭越しに錦江湾を眺める雅な空間で、和室２室にリビングを備えた１０２㎡の和室と、84㎡の和洋室の２タイプがひとクラス上の滞在を叶えている。時とともに移ろいゆく海の表情や対岸の大隅連山への眺めも上質な大人の時間を演出している。驚かされるのは千坪もの『元禄風呂』だ。江戸時代の銭湯というより、テーマパークさながらの異空間が広がっている。女性用は「浮世風呂」、男性用は「花魁風呂」。それぞれの壁一面には江戸時代の入浴風景の浮世絵が描かれ、束の間とはいえ日常の些事を忘れさせてくれる。湯船を満たすのは、14本もの自家源泉から引かれる一日約６００トンの温泉だ。指宿温泉は天然保湿成分のメタケイ酸を豊富に含む美肌の湯。その薬効と黒鉛軽石が放つ遠赤外線の新陳代謝効果が望める「樽風呂」や細かな泡でリフレッシュできる「泡泉」、サウナの原型「江戸石榴風呂」もあって健康増進に一役買っている。楽しみはまだある。全国で指宿だけの砂に埋まって温まりながらデトックスや美肌を図る入浴法「砂むし」だ。宿の海岸沿いには元禄風呂と直結した「砂むし風呂」があり、温泉と砂むし、ダブルの効果を体験できる。宿最大の魅力といえるだろう。さらに。湯殿中央に休憩所がある露天風呂、サウナ風釜風呂、立ったまま楽しむ打たせ湯、庭園を眺める「松雲風呂」など趣違いの風呂も用意されている。どれから楽しむか迷ってしまうほどのバラエティさだ。

料理は月替わりの和食・洋食・イタリアンの特選メニュー。３人の料理長が心を込めて手作りする本格的な味わいを３つの料亭や異人館風食事処、薩摩伝承館内のリストランテで楽しむ。錦江湾で獲れたキビナゴ、屋久島産トビウオ、枕崎のカツオ、鹿児島ブランドの黒牛や黒豚、鹿児島県産減農薬米など指宿のとっておきの美味が滞在に彩りを添えてくれる。館内には幻の焼酎「森伊蔵」が楽しめる焼酎道場も用意されている。

宿が運営する薩摩伝承館には西郷隆盛公ゆかりの作品を含む約３千点ものコレクションが収められている。「薩摩の心」や伝統美、美意識にもふれる旅。そのすべてを楽しむにはまた訪れるしかない。