DX活用で生産性向上けん引 アソビュー 代表執行役員CEO 山野智久氏に聞く


山野智久氏

「ウラカタシリーズ」が好調

 ――改めて、アソビューとは。

 「アソビュー社は、遊びの領域のDXカンパニー。観光だけでなくレジャーシーンを含めて遊びと定義し、DXでイノベーションを起こしていく会社だ。顧客対象は、(1)消費者(2)遊びを提供する企業(3)自治体(4)遊びの領域を彩るメーカーなどの企業―の四つ。消費者向けには、オンラインで遊びを予約できるようにするほか、遊びの施設向けにはバーティカルSaaS『ウラカタシリーズ』の提供で集客や業務改善など課題をDXで解決したり、自治体やDMOには購買データを活用したプロモーション、商品開発といったソリューションの提供などを事業として行っている」

 ――昨年度(6月末決算)の振り返りと今年度の立ち上がりについて。

 「一言で言うと好調だ。コロナ禍で生き抜くため、消費者向けサービスに加え、遊びの施設向けの事業も展開し二刀流になった。経営努力でマネタイズのポイントが増え、総量での売り上げが伸びた。特に、コロナ禍でさまざまな行動制限やルールが乱立する中、日時指定によるソーシャルディスタンスの確保を実現し、施設の運営を支えた『ウラカタシリーズ』は、20年6月ごろから本格稼働して好評を得ている。今期も昨年を超えるなど予算に対して実績は好調だ」

 ――知床観光船の事故の影響は。

 「数字には影響しなかったが、業界全体が安全・掲載基準、事故対応を改めて考える機会となったのではないか。われわれも基準を再度見直した。今後は、業界のさらなる健全化にも努めていきたい」

 ――10月21日にはKlookと戦略的業務提携を締結したが、狙いは。

 「インバウンド集客を考える旅ナカ事業者には待望の仕組みが出来上がった。Klookは約5千社の海外旅行会社と取引があり、通常は各旅行会社と契約やオペレーションの構築をそれぞれ行うものを、『ウラカタ』で統一し、ワンオペレーションで販売管理ができる。これは大きなインパクトだ」

 ――インバウンドの成長予測は。

 「成長、将来性で言えば、国内観光市場の成長性よりも当然高く、日本の登山など自然を利用したアウトドア体験は欧米客にとっては非常に関心があり、当社の契約施設と親和性が高い客層だ。観光庁政府は2030年に6千万人、15兆円の消費額を掲げている。6千万人の人数目標よりも日本の観光の高い付加価値を活用して現時点より2倍以上の客価格の実現は可能性が高いのではないか。それをけん引する一つの手段として繁忙期の価格の変動制にチャレンジしていきたい。今後は一定の成果やデータがたまれば、市場に示せる数字が増えてくる」

 ――アウトバウンドへの挑戦は。

 「国内での『アソビュー!』の認知度は、旅ナカOTAの中で非常に高い。サポートできる領域を広げていくのは必然であり、アウトバウンドにも当然興味はある。経営戦略として、協業や連携を大事にしており、他企業と争うよりも連携の可能性を模索しながら検討していく」

 ――宿泊領域に関して。

 「伸び代がある遊びの領域にフォーカスすることが直近の戦略。だが、横展開は十分可能であり、競合環境も見ながら、一つのあり得る領域として捉えている」

 ――日本の体験事業者のデジタルシフトの進捗(しんちょく)について。

 「遅れていたが、コロナ禍で想定の5倍スピードが進んだ。だが、国際市場で見た時に、日本の時間あたりの労働生産性はOECD加盟国38カ国の中で23位とまだ低い。今後はインバウンドの波により、5年以内には人手不足など課題に対するDXツールの活用による生産性向上は必須となるはずで、われわれはそれをけん引していく」

 ――抱える課題は。

 「プロダクト提供により、課題解決の可能性が高まる中、エンジニアの採用熱がさらに高まっている。GAFAのような外資系もライバルとなり、他社との差別化を打ち出しながら、必要な開発リソースを獲得していく」

 ――体験、その他関係事業者に求めたいことは。

 「経営努力を通じて、利益率、そして従業員の報酬を上げてこそ、働く人の意欲が上がり本当に観光立国として基盤が整う。業界全体の報酬水準を上げ、共に『かっこいい業界にしていきましょう』と言いたい」

 ――今期の目標は。

 「テーマはインバウンド。海外需要が戻って来る最前線にいる中、Klookとの提携を軸にしながら、業務オペレーション改善、顧客拡大につなげることが重要になる。ここを推進できれば業績はついてくる」

 ――IPOについて。

 「IPOマーケットは資金調達の手段の一つであり選択肢としてある。事業展開をする上で、資金調達の方法論として、ポートフォリオは分散化していた方が良いので、タイミングが来たら行うものだと考えている」

 ――現在、理想の何%まで到達したか。

 「10%。起業12年目となるが、11年前と比較しても理想は年々上がる。目指すべき姿が変わるのは健全な姿であり、当社がお役に立てる範囲の視界も10倍以上広がっている」

 

やまの・ともひさ=明治大卒。在学中に千葉県柏市で累計30万部のフリーペーパーを主宰。2011年に同社創業。著書「弱者の戦術」ダイヤモンド社。
【聞き手・長木利通】

 

 
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