EYストラテジー・アンド・コンサルティングは7月29日、オンライン記者会見を開き、「日本経済をけん引するツーリズム産業への成長にむけて~オーバーツーリズムを今考える」と題して、ストラテジックインパクト・パートナーの平林知高氏が、世界のオーバーツーリズム対策の現状と日本が取るべき方向性についての考察を発表した。
海外で行われているオーバーツーリズム対策のトレンドについては、
(1)金銭的な上乗せ(観光客に上乗せ料金を設定し、過度な訪問客を抑制。ピークシーズンに上乗せ料金を設定し、訪問客を分散)
(2)上限設定による制限(物理的に滞在可能な宿泊施設数の制限やクルーズ等の寄港を制限し、滞在客を抑制)
(3)事前予約制度(決められた数の入場しか認めず、予約制により訪問者数)
の三つに分類して解説した。
(1)の具体例としてはベネチア(イタリア)における入場料の徴収を紹介。「24年4月25日からベネチアを訪れ、ホテルに宿泊しない旅行者に対して、5ユーロの入場料の支払いを求める制度を開始。現状は、4~7月までの特定の29日間のみに適用される制度だが、来年はさらに10ユーロ、最大100日に適用する等も検討しているといわれている。当局は、今回の制度の目的は、イタリア近郊からの日帰り旅行者をターゲットにし、混雑を避けるよう訪問地の分散を促していると語っている」と解説。
(2)では、アムステルダム(オランダ)における新規ホテル数・寄港数の制限と、バルセロナ(スペイン)における民泊新規ライセンス発行制限を挙げた。「アムステルダムでは24年4月に原則、新規のホテル建設許可を発行しないと発表。観光客による年間合計宿泊日数を2千万泊以下に抑えるということを目標として設定した(23年は2066万5千泊)。また同6月26日に今後数年間で主要港湾ターミナルに寄港できる船舶の数を削減する計画を発表。クルーズ船によるマスツーリズムの回避を目指そうとしている」「バルセロナでは、24年6月21日に高騰する家賃に対処し、地元住民の住宅供給を増やすため、観光客向けのShort Term Rentals(STR。いわゆる民泊)を全面的に禁止する計画を発表。同市ではSTRの新規ライセンスの発行を停止し、28年11月までに、現在登録されている1万101戸についてはライセンスが廃止されることになる」とした。
(3)ではヨセミテ国立公園(米国)の事例を紹介。「ヨセミテ国立公園は、パンデミックで導入された予約システムを23年は継続しない方針を打ち出し、他の国立公園とは異なる動きを実施。しかし、混雑状況の深刻化などを受け、23年末に予約システムを再導入。週末・混雑期のみ利用とすることで混雑緩和と訪問者増の両立を目指している」と説明した。
19年と比較して宿泊者数の増加率が高い国内10都市の住民各200人に対して行ったオーバーツーリズムに関するオンラインアンケートの結果も紹介。居住地域に観光客が訪れている現状に対して「もっと多くの観光客が来てもよい」「観光客が来ている現状をよいことだと思っている」と回答した人は全体の41%。「観光客の数に関心がない、特に気にならない」という回答をも合わせると72%に達した。「観光客の多い現状をあまりよくないことだと思っている」「観光客はもっと少ない方がよい」「観光客は来ない方がよい」と回答した人の合計28%と比較して、現在の状況を肯定的に捉える人が非常に多いことが分かったという。
平林氏は、その他のアンケート結果も踏まえた上で、「マナー改善を筆頭に、交通インフラ改善のほか、観光税等の徴収や経済的な恩恵の実感を求める声が大きい。オーバーツーリズム解消に向けては、DMOを中心としつつ、観光客を含めたあらゆるステークホルダーが『自分ごと』として課題を捉え、取り組んでいく観光地マネジメントが重要」と結論付けた。