EY Japan、「インバウンド回復期における日本のツーリズムの検討課題の分析」を発表


 EY Japanは4月24日、「インバウンド回復期における日本のツーリズムの検討課題の分析」を発表した。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社(東京都千代田区、代表取締役社長:近藤 聡、以下EYSC)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)水際対策の緩和以降の日本におけるツーリズムの現状について分析をまとめました。

 

 

<インバウンド需要の状況>

日本政府観光局(JNTO)の発表によれば、3月に181万人強のインバウンド観光客が日本を訪れており、コロナ前の2019年比で65.85%の回復となっています。日本のインバウンド市場の回復をけん引しているのは、韓国、台湾、香港といったこれまでのインバウンド市場を支えてきたアジアの国と地域ですが、特に米国からの訪日観光客の回復が顕著でコロナ前を上回る成長となっています。先行きは、中国市場の回復が期待されており、楽観的な状況と考えられますが、人手不足が今後大きな課題になると考えられます。

 

 

 

<グローバルトレンドへの対応>

Short Term RentalSTR)市場の成長と課題

宿泊産業の回復状況を見てみると2023年の予測収益として、2019年比-1%程度までの回復がホテル産業では見込まれている一方、短期滞在者を対象とした宿泊施設であるSTR市場がコロナ禍において成長し、2023年には2019年比で41%成長すると予測されています。

 

 

背景の1つとして、リモートワークの浸透により、旅をしながら仕事する形態が増加し、デジタルノマド(ITを活用し、国内外を旅しながら働く人材)を対象としたビザの発給(以下、デジタルノマドビザ)が活発化したことが考えられます。デジタルノマドビザ取得者は、短期貸し住宅など短期間(数週間から数カ月程度)借りることができる滞在施設であるSTRに滞在しながら「リモートワーク」に携わります。デジタルノマドの取り込みは、地域の活性化につながる可能性がある反面、地域の一部に滞在する形態のSTRと地域住民とのトラブルが課題に挙げられます。

欧州では、2019年には欧州全体の4分の1程度がSTRによって提供されており、140万人が利用、延べ5.12億泊の利用がありましたが、住宅価格や物価の上昇、過剰な観光客の流入など弊害が生じました。2023年3月にEUの規制当局はBooking.com、Airbnb、Tripadvisor、Vrbo などのSTRプラットフォームからのデータ収集と共有に対する共通のアプローチに合意しました。EU加盟国は、共通の枠組みにより、データ収集の強化および透明性の確保を担保できるようになり、違法な事業者の排除など健全な市場環境構築が期待されます。

日本においては、「住宅宿泊事業法」に基づき、届け出をすることで旅館業法に基づく許可を取得することなくサービス提供することが可能(以下、民泊)ですが、条例の制定などにより民泊を禁止する動きもあります。欧州の動きを参考に、STR市場の透明性を確保することで、特に地方における宿泊施設の不足を解消するほか、滞在日数の長期化に伴う人材の交流の促進が期待されます。

 

 

サステナビリティへの意識の高まりと日本に期待される取り組み

コロナ禍を経て、世界的にもサステナビリティへの意識は向上しており、ツーリズム産業においても同様に、サステナブルな取り組みが加速化しています。宿泊施設では、プラスチック製品の使用を廃止するなどの取り組みが実施されています。欧州では、循環型経済推進の一環として、2022年に欧州委員会が「持続可能な製品のためのエコデザイン規則案」を発表しました。特徴的なのは、①製品情報を電子的手段で集約した「デジタル製品パスポート」を製品自体、パッケージまたは製品に付属する書類上に添付する義務付け、②売れ残った消費財の廃棄に関する規定を設けている点です。この欧州の取り組みは、ツーリズム産業にとっては、家電が主な対象となりますが、将来的に対象製品が繊維製品にも広がると、影響は甚大となります。

本は、サステナブルな取り組みが遅れているといわれています。欧州の循環型経済の取り組みを参考にしつつ、ツーリズム関連産業が主導して廃棄を避け、回収された製品のリマニュファクチュアリング製品を積極的に導入し、静脈物流を変えていくことで、先進的な動きをつくっていくことが、重要な視点であると言えます。

 

本分析を担当したEYSC ストラテジック インパクト パートナー 平林 知高のコメント:

昨年11月の水際対策緩和後、インバウンド市場は回復傾向にあります。今後、中国市場の回復が見込まれており、急激な需要回復が期待されるものの、ツーリズム産業は世界的に人材不足となっているため、サービスの低下が懸念されています。

こうしたインバウンド回復期において、滞在期間の長い旅行者の誘致、それに伴う宿泊形態の多様化としてのSTR市場の活性化や世界的に高まるサステナブルへの意識に対応し、遅れているといわれる日本が最先端の取り組みに移行すべく、ツーリズム関連産業が主導して、循環型経済をけん引していくことが重要な視点であると考えられます。こうした取り組みを通じて、世界的に魅力ある観光地であるだけでなく、変化する旅行者のニーズに対応し、サステナブルの最前線を行く観光地を目指すことで、世界から「選ばれる観光地」となることが期待されます。


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