観光庁は、大型連休のゴールデンウイーク(GW)で、道路渋滞や観光地の混雑が緩和され、宿泊予約や航空座席などの確保がスムーズになれば、国内旅行に約1兆円の新たな需要が創出されると試算した。一般消費者への調査を基に、旅行消費額を推計、混雑緩和に伴う旅行意向の変化を加味して算出した。ピーク時期の混雑緩和を通じた潜在需要の掘り起こしは、政府が実現を目指す休暇分散化の効果の1つ。試算結果を材料として分散化を巡る議論を喚起していく考えだ。
調査はインターネットを通じて実施。4月3〜6日に1万4466人から、さらに5月15、16日に追跡調査として前回の回答者のうち1万301人から回答を集めた。
今年のGWについて国内旅行の実施状況や消費額、条件変化に対する旅行意欲などを聞いた。試算値は、他の統計結果などを参考にネット調査に補正をかけて算出した。
移動、宿泊、観光などに伴う各種の混雑が緩和された場合、今年のGWに旅行に出かけなかった層の32.1%が「GWに国内宿泊旅行に行く」と回答した。また、今年のGWに旅行に出かけた層の8.8%が「宿泊数を増やす」、7.3%が「宿泊旅行の回数をもう1回増やす」、19.6%が「日帰り旅行を宿泊旅行にする」と回答した。
今年のGWの国内旅行消費額の推計値をベースに混雑緩和に伴う動向変化を加味して試算すると、国内旅行需要の純増分は約1兆円となった。内訳は宿泊旅行の新規実施分が4730億円、宿泊旅行の回数・宿泊数の増加分が800億円、日帰りから宿泊旅行への変更分が1510億円、日帰り旅行の新規実施と回数増加分が2850億円。
加えて休暇分散化でピーク需要が平準化されると、旅行費用の低廉化が予想されている。混雑緩和では旅行意欲に変化がない層でも、宿泊料金やパックツアー料金が3割安くなった場合、「国内宿泊旅行をもっとする」とした回答は、今年のGWに旅行に出かけた層で28.2%、出かけなかった層で20.3%。これを勘案すると、さらに3千億円の国内宿泊旅行の需要が創出されると試算した。
潜在需要を算出する基礎となる今年のGWの国内旅行消費額は1兆4千億円と推計した。内訳は、宿泊旅行が9272億円、日帰り旅行が4454億円。今年のGWに宿泊旅行を実施した人の割合は全体の20.2%で、旅行回数が平均1.05回、1人当たりの消費額が4万2874円。日帰り旅行は実施率が35.0%で、旅行回数が平均1.42回、1人当たりの消費額が8776円だった。
試算結果の公表について、観光庁の溝畑宏長官は、6月29日の会見で「この試算だけで休暇分散化を納得してもらうことはできないだろうが、チャレンジしてみる必要があるのではないか。トータルでプラスになっても、個別にはプラス、マイナスがある。説明、議論の機会はこれからも設けたい」と述べた。
観光庁では、休暇分散化により秋の大型連休の創出も目指すことから、昨年の大型連休「シルバーウイーク」の旅行動向を基に、今回の調査結果などを反映させながら、分散化に伴う秋の国内旅行の需要変化も推計し、8月ごろに公表する。
通常国会を視野に 秋口までに枠組み
観光庁は、休暇分散化の実現に向け、8月末ごろまでに、政府の観光立国推進本部などで具体的な制度案の枠組みを固めたい考えだ。その上で、各界代表者や有識者を集めた「国民会議」を立ち上げ、意見を聞く方針。政府の新成長戦略では今年度中に祝日法改正案の国会提出を目指しており、来年の通常国会が視野に入っている。
溝畑長官は「通常国会に提案するとすれば、秋口までには(分散化制度案の)枠組みを固めたい」と述べた。国民会議の詳細は今後詰めるが、観光業界だけでなく、産業、労働、教育など各界、関係省庁の代表者、有識者らをメンバーに構成されるとみられる。
休暇分散化に向けた具体的な制度案の枠組みづくりは、法案作成を念頭に、夏から秋にかけて最終の詰めに入る。制度の枠組みについて溝畑長官は「より効果が見込める具体的な案がなければ、現行案で進めることになるのではないか」との見方を示した。
現行案は、一部の祝日を「記念日」の位置づけに変更し、その分の休日を振り分け、春のGWと秋の大型連休を全国5つの地域ブロックごとに分散させる方式。現行の「ハッピーマンデー」の制度はなくなる。
今年3月に政府の観光立国推進本部で分散化の具体案が示されて以降、観光業界にも賛否両論があり、または地域ブロックの設定数などに異論も出ていた。制度案の枠組み決定に向け、観光業界や地域としても問題点や提案を再度整理してみる必要がある。