混雑、費用高騰で旅行者減少の前例
地方、時期の分散促進
2020年は、政府が目指してきた訪日外国人旅行者数4千万人の目標年次だ。東京オリンピック(五輪)・パラリンピックの開催年であり、観戦客の上積みは見込めるが、五輪の年には外国人旅行者数が鈍化、減少する事例が過去の開催国には見られる。日本政府観光局(JNTO)は、この現象を警戒し、対策に乗り出している。
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五輪の開催は近年の開催国を見ても、大会前後の期間を含めた複数年の情報発信の効果、旅行環境整備の進展などによってインバウンド観光の成長の契機になっている。しかし、開催年には外国人旅行者数が鈍化、減少する場合がある。
英国は、12年のロンドン五輪に当たって戦略的なプロモーション施策を展開し、インバウンド観光に成果を上げたことが指摘されているが、12年の外国人旅行者数自体は3018万人で前年比は0.9%増にとどまった。大会期間を含む7~9月に限ると、前年同期比4.2%減だった。
五輪開催年に外国人旅行者数が鈍化、減少する要因は、五輪観戦を目的とする旅行者分はプラスでも、五輪観戦に関心のない他の旅行者は、交通機関や宿泊施設の手配の難しさ、混雑、費用の高騰を嫌って減少するためとみられている。
JNTOでは、五輪開催年のこの現象を「クラウディングアウト」と呼び、警戒している。直訳は「押し出す」という意味で、この場合は、特定分野への需要の増加が、他の分野への需要を減少させてしまうことを指している。
個人旅行だけでなく、旅行会社経由の旅行への影響も懸念される。訪日旅行を取り扱う旅行会社が、東京抜きの旅行商品は販売が難しいとして大会期間中の商品造成を回避する傾向があるためだ。旅行需要は、国際観光の競合国に流出し、東京だけなく、地方への旅行者も減少してしまう恐れがある。
JNTOはクラウディングアウト対策として、(1)東京観光を希望する旅行者には客室が比較的確保しやすく、鉄道フリーパスなどを使えば短時間でのアクセスが可能な東京近郊の宿泊施設を提案する「周辺都市への宿泊分散」(2)訪日リピーターなどには、東京以外の地方の魅力を訴求する「訪日旅行の地方分散」(3)事前の周知で大会前後の時期に誘導する「訪日旅行の時期分散」―を挙げている。ターゲットなどに応じて分散を促すプロモーションを実施する。
三つの分散対策に加え、2020年限定の積極的なプロモーションで訪日需要を喚起する必要性を指摘。JNTO企画総室の金子正志総室長は、9月25日のプレスブリーフィングで「『どうしても2020年に日本に行かなくては』と思わせるプログラムを作る必要がある」と述べ、訪日客にとって特別感、お得感のある20年限定の特別プログラムの提供を鍵に挙げた。
特別プログラムには、例えば、文化財などの特別入場や特別観覧、特別な観光イベントなどをはじめ、20年限定の宿泊や交通の割引・特典などが想定される。JNTOは観光庁と連携して、9月からDMOや観光関係の団体・事業者に20年限定の特別プログラムを検討するよう依頼を始めている。
特別プログラムを生かしたプロモーションの詳細は未定だが、JNTOの金子総室長は「検討していただいたプログラムを早期に回収、集約し、プロモーションに反映した上で、JNTOのネットワークを通じて全力で発信していきたい」と話す。