政府は、新型コロナウイルスの感染状況が落ち着いている国・地域を対象にビジネス人材などに限定して国際的な往来の再開に着手した。出入国規制の緩和は段階的に進むとみられるが、観光客の往来再開までには時間がかかりそうだ。日本政府観光局(JNTO)は、ウェブサイトやSNSで将来の訪日につながるよう日本の魅力などを発信し続けているが、直近の誘客を目指すプロモーションは停止中で、出入国規制の緩和、インバウンドの受け入れ機運を見極めつつ、市場ごとに段階的に再開する方針だ。
訪日外国人旅行者数は3月が前年同月比93.0%減の19万4千人、4月が同99.9%減の3千人、5月が同99.9%減の2千人。日本政府は、新型コロナの水際対策として入国拒否や検疫強化・査証制限を実施中。実質的に全世界からの訪日旅行が困難になっている。
出入国規制は世界各国で実施されたが、感染症の収束状況、経済活動の再開などを踏まえて緩和の動きも。EU域内の移動のほか、アジアでも特定国間でビジネスなどの渡航に限って条件を協議した上で相互に規制を緩和する事例が出てきた。
政府は6月18日、国際的な往来再開に方針を示した。当面、ベトナム、タイ、豪州、ニュージーランドが対象。相手国との協議を経て、経営・管理、技術者、技能実習、特定技能などビジネスで必要な人材から往来を再開できるよう段階的に制限を緩和する。対象国・地域は順次拡大するが、ビジネス人材などが先行し、観光客の再開時期は見通せない。
JNTOは将来の訪日につなげようと、日本の観光魅力などを本部、海外事務所から継続的に発信中。公式サイトやSNSで360度VR(仮想現実)動画や高画質動画、地域などが制作した動画やライブカメラ映像などを紹介している。海外の旅行会社向けにはウェブセミナーも開いている。
新型コロナ下の観光情報の発信についてJNTOは、感染症の状況など現地の人々の心情に配慮した内容とし、文章なども平易なトーンで発信するよう留意している。いわゆる「3密」を回避する観点から、不特定多数の人が集まるイベントや繁華街、社会的距離が保たれていない空間などの画像の使用も避けている。予約や購入を促すことは控え、認知度の向上などを目的にしている。
誘客プロモーションを再開するには、日本と相手国の感染症の収束、出入国規制の緩和、解除が条件だが、感染症への警戒感などを踏まえ、国内の受け入れ機運も重要。JNTOの金子正志理事は「日本人の国内旅行の回復が前提となり、その上でインバウンドを呼び込んでよいのか、地域の受け入れ機運、国内世論の動向を考慮する必要がある」と指摘した。
状況が好転した場合、JNTOはプロモーションの再開について、現状のSNSやウェブセミナーでの情報発信に続き、安心・安全情報の発信、広告出稿などによる訪日観光のイメージ訴求、その次に航空会社との共同広告などの誘客プロモーション、メディアや旅行会社などの招請事業というように段階的に拡大する方向性を示している。
訪日旅行の受け入れ再開に当たってJNTOは、観光事業者や地域に(1)感染防止策の徹底と対応状況の情報提供(2)3密回避に向けた混雑状況の情報提供(3)事前予約制の導入など需要の平準化―などを検討するよう提案。金子理事は「混雑解消や需要平準化は、地域への負荷軽減につながる対応だ。以前の状態に戻すのではなく、この機に一歩前に進んだ取り組みを」と期待する。