THL沖縄で実証実験を開始 タップ代表取締役会長兼社長 林 悦男氏に聞く


タップ代表取締役会長兼社長 林 悦男氏

三つのホテルDXを推進 革新的な世界標準を創造

 タップの林悦男会長は、タップホスピタリティラボ沖縄(以下THL)で「沖縄県から革新的な世界標準を創造する。宿泊サービス提供者側の生産性向上と利用者側の『安全・安心・清潔・エコ・コンビニエンス(利便性)』を実現する」と強調する。THLの構想から実現に至るまでの思い、未来展望などを林会長に聞いた。

 ――THLとは何ですか。

 「当社が新築した宿泊DX実証実験ホテルです。場所は沖縄県うるま市。沖縄県が国内外の情報通信関連産業の一大拠点となることを目指して展開している『沖縄IT津梁パーク』の一角に約8400平方メートルの敷地を取得し、地上7階建て、延べ床面積約5400平方メートルの建物を作りました。2021年9月に建設着工し、今年3月に竣工。6月30日が開設日と申しますか、実証実験開始日となります」

 ――THLに整備される施設について教えて下さい。

 「客室は6、7階の2フロアで、他のフロアにはカフェ、多目的ホール、セミナールームや連携企業との共同研究施設である『ホスピタリティサービス工学研究所』などが入ります。客室は全38室です。あくまでも実証実験用ですので、一般客向けの販売は満足なサービスが保証されるものではありません。宿泊者本人のご理解を得た方のご宿泊を考えています」

 ――タップは業種的には「ITベンダー」で、ホテルシステム(PMS)の会社です。IT企業がなぜこのようなハードを持とうと思われたのですか。

 「PMSは成熟しつつあります。各社の製品に機能面でそれほど大きな差はありません。そこで当社はPMS会社から『ホテル・旅館専門の総合エンジニアリング会社』へと進化する道を選びました。今から6年前に開いた当社設立30周年式典で、ユーザーの皆さまの前でそのようなお話をさせていただきました」

 「ホテルDXは、大きく分けて三つあります。一つ目はソフトウエアのDX、二つ目はロボットなどメカの導入のためのDX、三つ目は建築・設備のDXです。この三つのDXを単独だったり、組み合わせたりしながら宿泊施設に提案していくのがホテル・旅館専門の総合エンジニアリング会社です。ソフトウエアのDXは、既存施設のままで導入できますから受け入れられやすい。ホテル・旅館がすでに採用しているPMSにつなげられるソフトウエアならなおさらです。例えば多くの宿泊施設では客室扉とカードキーが信号をやり取りして扉の開閉を行っていますが、THLではさまざまな生体認証システムやソフトウエアがPMSに信号を送り客室の扉を自由に開閉できるよう客室入り口の壁側にITボックスを設置し、今後テクノロジーが進化しても客室の扉を変えなくてよいITドアを開発し実証実験を行っていきます。ところがメカや設備のDXとなると、導入するためには改装や改築、場合によっては建て替えが必要になりますので、導入してくれる第1号ホテルを探すのは容易ではありません。だったら、自分で実験用のホテルを作ってしまおう。そうすれば実証実験がいくらでもできるので、実証実験済みのメカ製品・サービスを宿泊業界にご提案できる。こう考えたわけです。生産性を上げるには、今までの人的サービスの一部をテクノロジーサービスへと変換する必要があります。私たちは、さまざまな企業・団体とアライアンスを組み、新しい製品・サービスを自動車業界に例えるならテストドライビングコースで綿密にテストした上で、宿泊業界にご提案していきます」

 ――ロボットなどのメカのDXでは具体的にどのような実証実験をされるのでしょうか。

 「一例を挙げますと、ロボットのフリートマネジメントシステムです。これは、メーカーごとに異なる制御システムや駆動方式を採用しているロボットをシステムで連携し、総合管理して動かしていこうという考え方です。例えばホテルのエントランスでは、お掃除ロボットやサービスロボットなど、複数のロボットが稼働するシーンが想定されます。これらを全て同一メーカーのロボットで統一するのであれば、同じ制御システム、駆動方式なので問題ないかもしれませんが、近い将来にはさまざまなメーカーのロボットが同じエリアで稼働することになるでしょう。つまり、あるメーカーのお掃除ロボットが稼働している中で、別メーカーが作ったサービスロボットが走行することになります。そのような状況の中でも、稼働中のロボットがいる位置を常に把握して、ぶつからないようにロボットの経路をコントロールしたり、仮に衝突しそうになってもロボット同士が避けあうような仕組みを構築します。ロボット同士がすれ違う時のスピードは何キロにするのかといったルール作りから各メーカーと一緒に取り組んでまいります」

 ――ホテル内でのロボットの活躍イメージは。

 「エントランスではアテンドロボットがお迎えします。アテンドロボットに内蔵されている顔認証でゲストの情報を取得。組み込まれたカード発券機でチェックイン手続きも行えるようにします。また、宿泊中のゲストがアプリを通じて食事やアメニティサービスをオーダーされた際に、ホテルスタッフに代わってルームサービスロボットがエレベーターや自動ドアと連動しながら客室までお届けします。レストラン業務では、人とロボットの共生の検証として、障がい者と、ロボットやソフトウエアによる業務分担の可能性を追求します。調理は障がい者が担当し、配膳や下膳はロボットが行います。配膳ロボットとアームロボットを連携させ、レストラン業務の無人化の可能性も模索していきます。清掃分野でもロボットが清掃スタッフの業務をサポートする形を考えています。リネンロボットによるリネンの自動搬送、清掃を終えた部屋を消臭消毒ロボットが効率よく巡回する仕組みなど運用面での実証実験も行っていきます」

 ――THLはホスピタリティ業界におけるパラダイム転換のきっかけになるかもしれませんね。

 「実は今回、工場の自動化が得意だった日立や三菱、パナソニックといった大手企業がTHLアライアンスに参加してくださっています。工場の自動化にホスピタリティは関係ありませんから、ホスピタリティの観点でロボットを考えたことなどおそらく今まではなかったでしょう。日本を代表するメーカーと一緒にホスピタリティ用ロボットや自動化の研究、実証実験を行っていきます」

 ――建築・設備のDXについてはいかがでしょうか。

 「コンクリ―ト寿命が60年として、その間、客室の広さを変えられないのはマーケットの変化に対応できない可能性があります。そこで二重床にして、配管、配線は全てそこに収めました。コンセントは全て床か天井に設置していますので、壁を壊しやすい構造になっています。またロボットが室内まで入れるように自動ドアの客室も作りました。防音性をテストするため、さまざまな壁材、壁紙を使っています。客室ごとの水や電気も使用料を計測、分析し、最適化するための実験、研究なども行います」

 ――そもそもTHLを沖縄に作られた理由は何ですが。

 「第1には、沖縄県のご協力もあり沖縄IT津梁パークの土地が取得できたことがありますが、沖縄には外資ホテルチェーンも含めて素晴らしいホテルが数多くあるからです。ですからTHLが沖縄にあれば、さまざまなホテル関係者に実際に見ていただけるチャンスがあります。ホスピタリティとテクノロジーが融合した新しいホテルの形を日本が世界に先駆けて確立し、日本のホテル業界を輸出産業に変えたいという夢が私にはあります。THLを輸出品のショールームと捉えれば、東京よりも沖縄の立地の方が優れていると考えています。私たちはTHLで沖縄県から革新的な世界標準を創造します」

 

THL全景

 ホテル・旅館専門の総合エンジニアリング会社のタップ(東京都江東区、林悦男代表取締役会長兼社長)は30日、沖縄県うるま市に実証実験ホテル「タップホスピタリティラボ沖縄(以下、THL)」を開設する。

 THLは地上7階建て、総客室数38室。沖縄県が国内外の情報通信関連産業の一大拠点となるために進めているプロジェクト「沖縄IT津梁パーク」内に新築した。THLの主な目的は宿泊施設の生産性や顧客満足度の向上。ロボットなどの最新テクノロジーを宿泊施設に導入するための実証実験を、タップを主体とする「産官学」の連携で行っていく。

 産業界からは、パナソニック、日立製作所、三菱電機、ソフトバンク、シャープなど60社が”THLアライアンス”企業として参画。沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)、沖縄ITイノベーション戦略センター(ISCO)、琉球大学工学部、沖縄高専(国立沖縄工業専門学校)との連携を計画中だ。

 

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