9月に京都を訪ねた。観光公害(オーバーツーリズム)がささやかれ、昨今は訪日外国人のフードコートともいわれ、足が向かなかった「錦市場」を久しぶりに訪ねた。狭い市場の通りは、刺し身など海産物、練り物、抹茶など菓子類をつまみながら食べ歩きを楽しんでいる外国人の方々であふれ、なかなか前に進めないほどの混雑である。
市場を散策していると、目に飛び込んできたのが、山積みにされたタラバガニ?の立派なゆで足だ。店の上には、かに道楽ほどではないが、立派な蟹(かに)の模型が鎮座している。9月なのに? よく見ると英語で「CRAB STICK」、漢字で「蟹棒」と大きく書かれており、隣に日本語で「蟹カマ」と書かれていた。何と、これは、蟹ではなく「蟹カマ」なのだ。これは、正確に日本語を理解できない外国人の方々に対する景品表示法違反だ。外国人の方々は、何だと思って食べているのか? 蟹? 蟹カマ?
蟹カマは黙って食べたら、蟹と勘違いするほどの素晴らしい出来だ。でも、決して蟹ではない。日本の練り物は、ウナギのかば焼き風、蟹カマあり、素晴らしい完成度だ。蟹カマは、蟹との勘違いを利用して商売するのではなく、蟹カマとして告知し、日本の練り物の素晴らしさ、技術力を感じていただくことこそがあるべき商売なはずだ。
観光公害というと、「大勢の観光客」と「地元住民の生活」の対立構造で語られることが多いが、今回のように、本来の価値、中長期的利益より目先の利益を優先し、結果的に価値を棄損する可能性のある行為の公害も存在する。
観光立国を目指すには、ラグビーW杯、オリンピック・パラリンピック、万博などイベントだけではなく、日本の魅力を体験、体感、実感、理解していただき、多くの方々に、訪日していただくためにも、このような商売は、重大な観光公害だ。正しい、本物の素晴らしさ、技術力をお伝えし、真の観光立国につなげていくことを希望する。
(NPO・シニアマイスターネットワーク会員 関西外国語大学外国学部教授 伊東英一)